6月2日、言わずと知れた格闘ゲームシリーズの金字塔である、ストリートファイターシリーズの最新作、『ストリートファイター6』が発売された。ゲーム3本分とも称される大規模なプロジェクトだった今作の開発のウラ側について、お二人の開発陣からお話を聞くことができた。後半では、開発中の困難やCBTでのトラブルについてなどのお話をご紹介する。
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・【独占インタビュー】ゲーム制作のウラ側とコンテンツへの熱意|ストリートファイター6【前編】
クラウドサーバーの活用と利点
ーーストリートファイター6の開発ではクラウドサービスが活用されているとお聞きしていたんですが、こちらはどういった場面で使われているものなのでしょうか?
石橋:ストリートファイター6はいわゆるオンラインゲームなんですが、オンラインゲームを動かすにはサーバープログラムをどこかのサーバー上で稼働させる必要があります。
自社でサーバーを用意する方法もありますが、昨今のオンラインゲーム開発では、導入・保守コストを抑えられて、必要に応じてサーバー台数やスペックを柔軟に調整できるメリットがあるクラウドサービスを利用する方法が主流かと思います。
ストリートファイター6はサーバープログラムを動作させるためのクラウドサービスとしてGoogle Cloudを採用している、という形になります。
ーーストリートファイター6の開発に関して、何か困難だった点などはあったんでしょうか?
石橋:今回、Google Cloudさんの「Cloud Spanner」というデータベースを使用していまして、データの整合性を確保しながらスケーラビリティも確保できるという、他のクラウドサービスが提供してないような魅力のあるデータベースなんですが、使う上でコツというか独特のノウハウが必要なところもあり、その癖を掴み取るまで現場のサーバープログラマーはいろいろ試行錯誤を重ねていました。ユーザーが10万人20万人と入ってきたときにサーバーが耐えられるかどうかを事前に試験する、負荷試験のフェーズがあるんですが、そこで思ったようなパフォーマンスが出せず、四苦八苦していたこともありましたね。
ーー格ゲーの場合、フレーム単位のコンマ何秒とかでも遅延が発生するともう大問題みたいな世界だと思うんですが、クラウドサーバーを利用することによって、そのあたりに不都合などはないのでしょうか?
石橋:格闘ゲームはちょっと特殊でして……ストリートファイター6は「遅延を極限まで減らして欲しい」というオーダーがありましたので、対戦が始まってからの通信はサーバー経由ではなくてP2P、つまりクライアント(ユーザーが操作しているゲーム機かPC)同士が直接接続するような形で通信をしています。
ーーサーバーを介さずにデータをやり取りしてるってことでしょうか。
石橋:そうですね。対戦のマッチング、誰と誰が戦うかというユーザーの選定みたいなところまではサーバー上で行ってるんですが、その結果「この人とこの人がマッチしました」っていう情報をクライアント側に伝えた後は、それらがお互いに直接接続してキー入力情報をやり取りをするという形になっています。サーバーを経由してしまうとそのぶん遅延が大きくなってしまうので、できるだけ早くするための方式ですね。
ーー今回はクラウドサービスの中でもGoogle Cloudさんを使用されてるとお聞きしていますが、Google Cloudさんを選んだことに明確な利点や理由などがあったのでしょうか?
石橋:ちょっといやらしい話をすると、他のクラウドサービスと比較して費用的なメリットが大きかったってのがまず一点あります。それから新しいノウハウを蓄積しようという意図もありました。弊社のゲームはこれまで別のクラウドサービスを使って開発することが多かったのですが、クラウドサービスは各社ごとにメリット・デメリットや得意・不得意の分野があるので、要件の合うタイトルではGoogle Cloudさんを使ったりだとか、今後のオンラインタイトルで柔軟なクラウドの選定ができるように、その知見を貯めるっていう目的もありました。
オープンベータでは予想していなかったトラブルも
ーーリリースに先立って行われていたオープンベータなどでも、何か新たな課題点などが見つかったりもされていたんでしょうか?
石橋:実は先日のオープンベータは元々テスト目的のものではなくて、純粋にプロモーション目的というか、ユーザーさんに盛り上がってもらうためのものでした。ただマッチングやトーナメント機能で想定以上の負荷がかかってしまい、サービスが維持できなくなったという問題もありました。
ーーオープンベータでトラブルに見舞われた方も、その点については安心してリリースを迎えられそうですね。
石橋:オープンベータで見つかった問題に関しては対策をしているので、同じトラブルでまた障害が起きることは心配しなくて大丈夫かなと思います。テスト目的ではなかったのですが、正式リリース前に不具合を見つけられたことになり、結果的に言えば(オープンベータを実施して)助かったという感じですね。
ーーオープンベータでユーザーさんの反響が大きかった点で言うと、今回はキャラメイクがかなり凝れるようになっていた点があったかと思います。SNSでは手足を大きく伸ばしたりだとか、すごい形のキャラクター作ってるようなプレイヤーさんも散見されて面白かったですね。
蘆田:感情移入できるアバターが作れるという点が大事かなと思っています。感情移入できる形っていうのは人それぞれなので、とにかく制限なく、いろんな見た目のキャラを作れるようにできることを重視しました。体とか顔とかのパーツ単位で細かく設定はできるようになってますし、筋肉量みたいなパラメータもあって、筋肉質だったり痩せてたり、ちょっとぽっちゃりしてたり…みたいなところが変えられるのは、ストリートファイターならではかなと思っています。
ーーそういう細かさって、やっぱり「自分がゲームの中に入ってるな」っていう感じがすごく強く出ますよね。
蘆田:はい、没入感にも繋がるので大事です。
開発陣からプレイヤーさんに向けて
ーーでは最後のご質問になるんですが、この記事の公開タイミングがゲームリリースの数日後……ぐらいかなと思うんですけれど、ゲームを遊ばれているプレイヤーさんに向けて何かコメントをいただけるでしょうか?
蘆田:そうですね……ゲームのキャッチフレーズとしても使ってるんですが、自信を持っておすすめできるものが出来上がりましたので、あとは「楽しんだもん勝ち」です!
それからこれは他のメディアさんにもお伝えしている話なんですけど、今回のストリートファイター6は「ゲーム3本分」みたいに言っちゃえるくらい規模が大きいんですね。それに比例して開発スタッフもめちゃめちゃ多いんですよ。それが今作の立ち上げ時に全部を1から見直して、何もないところからゲームを形作ってきました。クリエイターの仕事って正解のないところに正解を作っていくことだと思っているんですが、携わったスタッフみんなのアイディアとかセンスだとか技術みたいなものがゲーム内のいたるところに盛り込まれているので、プレイしてそういったところを少しでも感じていただけると、スタッフとしてはすごく嬉しいです。ありがとうございました。
ーーありがとうございました!
ストリートファイター6について
(編集・執筆/ena,中村)