6月2日、言わずと知れた格闘ゲームの金字塔であるストリートファイターシリーズの最新作、『ストリートファイター6』が発売された。ゲーム3本分とも称される大規模なプロジェクトだった今作の開発のウラ側について、お二人の開発陣からお話を聞くことができた。前半では、ストリートファイター6に対する開発陣の思いや工夫をご紹介する。
インタビューさせていただいたお二人の自己紹介
蘆田:サブディレクター兼メインプランナーの蘆田(アシダ)といいます。ディレクターの中山と話しながらゲーム全体の企画に携わっています。よろしくお願いします。
石橋:リードサーバープログラマーの石橋と申します。サーバープログラマーの業務管理であったり、他チームや他部署からの問い合わせ窓口業務をやらせてもらってます。
ーー本日はリリース直前※のお忙しいところをありがとうございます。本日はよろしくお願いします。
※このインタビューはリリース前の5/29に実施しています。
新規プレイヤーへの間口を広げたストリートファイター6の工夫
ーー今回のストリートファイター6って、全体的に何か初心者さんというか新規のプレイヤーさんに向けた工夫を強く感じています。プロモーションビデオか何か※でプロデューサーさんが、対戦格闘っていうものをエンドコンテンツとして考えている、みたいなことをおっしゃってて、まずは別の部分からゲームを楽しんで欲しいという意図はあるのかなと思うのですが……
※Red Bull Gamingで発表されたメインキング内のインタビュー
蘆田:その点は開発的にも気をつけていました。そもそも、格闘ゲームって面白いんですよ! でもやり方がわからないと、手にとってもらえなかったり、すぐにやめちゃったりしてしまうわけでして……ちょっとここから話が長くなるんですけど……
ーーぜひお願いします(笑)
蘆田:かつて社会現象※とまで言われたストリートファイターⅡっていうゲームが登場した当時、各社からもいろんな格闘ゲームがリリースされて、それ以来格闘ゲームっていうジャンルはずっと続いて進化してきています。でもルールとか基本的な部分については、「もう言わなくてもわかっていますよね」みたいな感じで説明も少なくって、難しくなる一方……という側面もあったんですよね。
※ゲーセンどころかスーパーとか町の文具屋さんにまでストリートファイターⅡの筐体が並んでいたヤバい時代があった。
蘆田:でもそれだと新規のプレイヤーさんがなかなかスタートラインに立てないんで、今回のストリートファイター6では「格闘ゲームってこういう仕組みになってるんだよ」、「こうやって戦うんだよ」、「やってみて、ほらできたでしょ」っていう、基本的な部分をしっかりと伝えることで面白さを知ってもらえたらなと。で、世界中のみなさんと一緒に遊べたら嬉しいな……っていうふうに思っていました。
「ワールドツアー」だと、自分の分身となるアバターで世界を旅することによって、いつの間にか格闘ゲームの基本が身に付くようになるっていう設計になっています。あと、「ファイティンググラウンド」の方では「プラクティス」モードの括りにあるチュートリアルでルールやシステムを直接説明していたり、「キャラクターガイド」では、キャラクターごとの技とか戦い方を知ってもらって、それから「コンボトライアル」で連続技を身につけてもらって……という感じで、「プラクティス」をやればどのキャラも動かせるようになります。
ーーいろんなことをちょっとずつ段階的に勉強していけるっていうことですね。
蘆田:そうです。初心者さんに向けたところで言うと、今作の「モダン操作」もそうです。格闘ゲームでは「読み合い」っていうのが大事な要素の1つなんですね。ここをよくじゃんけんに喩えられたりするんですが、相手が「チョキ」を出してくるのを読んで、自分はそれに勝つ「グー」出したい。でも「グー」に当たる昇龍拳のコマンドの入力が難しいから出せない……みたいになると、読み合い以前のハードルで躓いてしまっていたわけなんですね。そのハードルを取っ払うべく、ワンボタンで必殺技が出せる「モダン操作」を新しく導入しました。これによって、読み合いに集中できる環境になったわけです。
ーー格ゲーの一番美味しいところに初心者の人でもアクセスしやすくなったんですね。
蘆田:読み合いの「読み勝って楽しい」みたいなところは感じてもらいやすくなったかなとは思っていますし、ゲーム全体で格闘ゲームの面白さをわかってもらいやすくするっていう作りを目指しています。
ーーやっぱり格ゲーってすごく緊張感あるゲームなんですよね。それが魅力だとも思うんですが、初心者の方は壁にも感じてしまう。そこの壁をどう突破するかのかというのは、今の時代のゲームにおける課題かなとも思います。例えばスマホのゲームならチュートリアルすごく充実していたりしますよね。格ゲーのように新規プレイヤーの参加障壁が高いゲームでも、うまくプレイヤーさんを適応させてあげようとしているのがこのストリートファイター6なのかな……っていうのが、僕がお話を聞いて思ったところです。
蘆田:はい。そういう意味では「ワールドツアー」をすごく長いチュートリアルととらえてもらっても良いのかもしれないですね。クリアする頃にはアバターとともにプレイヤー自身も上達しているはずです。
みんなで楽しめるゲームセンターを作りたかった
ーーちょっとずれるかもしれないんですが、格ゲーってゲームセンターで人と対面しながら遊ぶっていうのが元々で、待ってるプレイヤーが背後でベガ立ち※しながら他の人を観戦しているというところまで含めてその場の雰囲気を作っていたと思います。それで言うと今作では「バトルハブ」っていうのがゲームの機能としてあって、バーチャルゲームセンター作ろうぜ、みたいな雰囲気を感じているんですが、開発の方からは、「こういうふうに使って欲しい」みたいな展望とかはあるんでしょうか?
※ベガ立ち:他の人の対戦を後ろから観戦すること。立ち方がベガっぽく見えるのでこう呼ばれる。場所によっては禁止されているので注意しようね。
蘆田:そうですね、まさにゲームセンターなんですよバトルハブって。開発メンバーにはゲームセンター好きなメンバーが多くいまして、その良さも知っています。友達の家に集まってみんなでわいわいゲームする、っていうのに近いところもありますね。いろんなゲームがところ狭しと置いてあって、気に入ったゲームがあったらワンコイン入れたらすぐプレイできて、そのプレイしてる人をベガ立ちしながら後ろから見たりだとか、さらに見ているうちに驚きとか発見とかあったりして。とにかくゲームセンターっていう場所に行ったら必ず誰かはいて、知らない人とも対戦できたりして、時にはそこで知り合った人と同じゲームの話題で仲良くなって、うまくいったらコミュニティが広がっていく……みたいな、そういう場所をゲーム内にも作りたいっていう思想が開発初期からありました。
ーーゲームのコンセプトとしてがっちり組み込んでいたということなんですね。
蘆田:そうなんですよ。それが形になったものがバトルハブです。すごくかいつまんで言うと、ゲームセンターを作りたかったわけです。
ーーバトルハブの中だと、過去のストリートファイターのシリーズとかカプコンさんの他のゲームタイトルとかもプレイできるようですが、今後そういったものを使った大会とか、コミュニティの醸成みたいなことも考えられているんでしょうか?
蘆田:ストリートファイターの過去のシリーズはもう既に遊べるようにはなっていて、日替わりで遊べるタイトルが入れ替わったりとかもしていきます。誰でも簡単にエントリーできるトーナメントとかも計画していますね。そのトーナメントも全体でやるものもあれば、ルーキー限定とかキャラクター限定トーナメントとか、そういうのも計画しています。
ーーキャラクター限定大会とか、ものすごくゲーセンぽいですね。具体的なものがすごくイメージできる感じがします。
蘆田:あとは、バトルハブの中だけに限らず、ゲーム全体でも他社さんと何かコラボとかもできればいいな……とは思っています。
ーーえっ、それはカプコンのゲームだけじゃなくて、他社さんのゲームだったりをバトルハブとかでも配信して……みたいなイメージなんでしょうか?
蘆田:できればいいですね。これはあくまで個人的な願望ですけど。
プレイヤーが没入し続けられるための細かな工夫
ーーたぶん僕とかもすぐにランクマッチとか始めちゃうタイプの人種なんですが、今のお話だとそこもすごく力を入れてらっしゃるっていうことなので、一人用モードも端折らずにちゃんと楽しみたいなと思います。
蘆田:ランクマッチと言えば、これも初心者さんに向けたところの文脈なのですが、今回はランクが少し降格しにくくなっていたりする改善も入っています。他にもゲームのテンポみたいなところを重要視していまして、時間を忘れてのめり込めるような工夫もしています。例えば対戦の勝敗がついたときのリザルト画面で各キャラクターが勝利ポーズをとるんですが、そこに関してデザイナー側とひと悶着あったりもしました。デザイナー側としては勝利ポーズをしっかり見せたいんですよね。でもこちら側はすぐ次の対戦ができるようにしたくて、さあどうするかっていうところで、最終的にはポーズを最後までちゃんと見られるようにしたんですが、ボタンを押したらすぐにメニューが出てきて、再戦を選んだ場合は演出を飛ばして進めるようにしました。
ーーそうですね、体験版で実際にプレイしていたんですが、「トイレに行く時間がないのでやめられない」みたいな感じのテンポの速さでしたね。初めての方とかだとそもそも意識に引っかからないような部分だとは思うんですが。
蘆田:ずっとやっちゃって、気づいたときはもう体の方が疲弊してるみたいな。
石橋:開発スタッフの方でもよく業務終了後に10先とか20先※とかやってるんですが、気がついたら10戦20戦40戦終わってるっていうところがあるので、あっという間だなってふうに感じますね。前作だったら10先でもきつかったんですが、今作だったら20先でも何とかいけるかなっていう感じです。
※10試合先取、20試合先取の格ゲー対戦方式のこと。
ーーめちゃくちゃテンポいいですよね。細かい部分なんですけど、格ゲーマーってそういうとこ気にするんですよね。
蘆田:対戦だけじゃなくって、いろんなイベントも開催予定なので、目的が無かったとしても起動したらまずはふらっと「バトルハブ」を覗いてみてもらえるときっと何かが待ってます。
ーーちなみにどんなにイベントが開催されるんでしょう?
石橋:いろいろ……ですね。ちょっと具体的な話はできないんですが、いろんなイベントを開催予定っていう。
蘆田:個人で楽しめたりだとか、みんなで一緒に楽しめたり、みたいなイベントとかも考えていますので。
石橋:戦いだけではない、いろんなことが起きると思いますので、ご期待ください。
ストリートファイター6について
(編集・執筆/ena,中村)