2024年4月1日に事業開始した新進気鋭のプロデュース会社『スゴロックス』。ゲーム業界大手の『セガ』から独立した西山泰弘氏、小川賢氏にゲームエイトライターが直撃インタビュー。会社設立の経緯や思い、取り組んでいきたい事業、今後の展望まで聞くことができたので、ぜひチェックしてみてほしい。
自己紹介
西山泰弘氏(以下、西山氏):『スゴロックス』の代表取締役 兼 エグゼクティブプロデューサーを務めている西山泰弘です。セガで20年以上アーケードやコンシューマー、モバイルなどのプラットフォームで様々なジャンルのゲームのプロデュースをしてきました。
小川賢氏(以下、小川氏):『スゴロックス』でビジネス・プロデューサーを務めます小川賢と申します。いろいろなITメガベンチャーで新規事業を手がけたり、プロモーション業務を経験してきました。
なぜゲーム業界大手の『セガ』から独立?気になる経緯や事業内容について迫る
ーー『スゴロックス』というユニークな社名ですが、どのような気持ちを込めて命名したのでしょうか。理由や経緯を教えていただけますか。
西山氏:僕はゲームの本質を「じゃんけん」や「サイコロ」だと思っていて、そう考えた時にスゴロクをイメージした会社名にしたいと考えたのが始まりです。その上で、仕事はロックな感じでいきたい思いと、ゲーム会社っぽさを掛け合わせた『スゴロックス』を採用しました。
裏には大手ゲーム会社出身のメンバーが、人生の振り出しに戻るという意味も込めています(笑)
ーーゲーム業界の大手と言える『セガ』から、なぜ独立したのでしょうか。理由や経緯を教えていただいてもよろしいでしょうか。
西山氏:『セガ』は設立60年を超えていて、これからも続いていかないといけない会社だと思います。『サミー』と経営統合したこともあり、たくさんの従業員の雇用を保証したり、多様な事業を行ったりと、社会の中で必要とされている役割がますます大きくなっていると感じています。
そういった社会的な影響力をもつ企業で働くやりがいはもちろん感じていましたが、業界のステークホルダーの皆様からいただく色々なご相談に『セガ』の西山ではすべてお応えすることが難しいことに歯がゆさも感じておりました。
また、日本はものづくりの国だから歴史的にハードウェアのイノベーションをしてきていますが、現在はソフトウェアのイノベーションのタイミングになってきています。スマホ以降、新しいハードウェアのイノベーションが起きていないので、ソフトウェアのイノベーションの時代が来ていて、ブロックチェーンやAIなどの技術革新を含めてすぐそこまで来ていると感じています。
こういうソフトウェアのイノベーション領域に対して何よりも大事なのはスピードだと感じてます。ブロックチェーンやAIといった最新のテクノロジーをうまく使いこなしながら、日本のゲームパブリッシャーやデベロッパー(以下、パートナー企業)と協業することで数多くの挑戦をして、ゲーム業界全体をバージョンアップできたらと思って独立しました。もちろんパートナー企業あっての『スゴロックス』だと思うので、痒いところに手が届かないシーンでも、僕たちがキャッチアップしたものを使っていただきたいと思っています。
僕はビジネス上で自分達だけが良いポジションを取るつもりは一切なくて、大手企業や中堅企業のリレーションの力にもなれればと思っています。新しいやり方で日本のゲーム業界の役に立つような活動をできたらいいですね。
ーー会社を設立する中で大変だったエピソードを教えていただいてもよろしいですか。
西山氏:一番大変だったのは、バックオフィス周りのことでした(笑)
小川氏:事業では能力のある方は多くいるのですが、バックオフィス系が得意じゃなくて、今まで自分たちがやっていなかった範囲まで見ないといけなかったので四苦八苦しましたね。
西山氏:「会社の電話番号はどうする?」「経費の立て替え精算ってどうするの?」「金融公庫ってどうすればいいの?」などの細かい部分で苦労しました。現在のメンバーはプロデューサーやディレクターが多くて、マネジメントコストが全くかからないのですが、バックオフィス部分は頼れる人に担当してもらえばよかったです。
小川氏:「パソコンを買ったけどウイルスソフトどうしよう?」とか(笑)みんなにダウンロードしてもらうためのメールやダウンロードの仕組みを作ったり、今までやってこなかったことに挑戦するのが大変でしたね。
西山氏:法人の事業開始発表の一週間前なのにティザーサイトだけで、プレスリリースの情報が全くない状況でしたね。各方面の方にお世話になってやっと形になりました。
小川氏:夏休みの8月31日の状態でした(笑)
ーーそれは大変ですね(笑)ホームページを見ていて「企画プロデュースカンパニー」という文字を目にしたのですが、具体的にどのような事業内容なのでしょうか。
西山氏:我々の得意分野を考えた時に、デジタルとアナログをつなぐエンターテインメント領域をワンストップでプロデュースすることだと思いました。僕はアーケードやコンシューマーをはじめ、色々なゲームのプラットフォームでたくさんのコンテンツを経験してきました。コンテンツの提供の際には、自分たちでマーケティングやコミュニティの運営なども行ってきており、デジタルとアナログをつなぐプロデュースは得意なので、パートナー企業に必ず必要とされる存在になれると思っています。
自社のスタジオにプランナーやデザイナーなどの人を集めて、スタジオ事業だけで一貫してやりつづけますという訳ではなく、パートナー企業と積極的に協業していくことでゲーム、エンタメ業界で長く必要とされる存在として楽しみたいんです。そのために常に勝てる分野を探して実績を積んでいって『スゴロックス』が業界から愛されるような会社にしていきたいです。
例えば、企画力や開発リソースが足りずに困っているパートナー企業がいれば、スゴロックスのメンバーがプロジェクトにハンズオンで支援しますし、その時々で最適な開発ベンダーをお繋ぎします。また、パートナー企業のプロジェクトの開発資金が足りないなら自分たちがプロジェクトに関与しながら、外部のファンドの方を連れて助けに行くようなことも行いたいと思っています。ゲーム開発の実力はあるのにビジネスやプロジェクトマネジメントに苦戦しているパートナー企業も数多くあると思うので、その部分を積極的にお手伝いできたらと。「なにか困ったから西山とかスゴロックスに頼んでみよう」みたいな!
ーー頼もしい会社を目指しているのですね!
西山氏:ただ、僕らは助けに入った会社に一生コミットできるわけではないので、最終的には元々いるスタッフを中心に自走できるようにしていきます。伸び悩む原因は多岐に渡るので、僕だけの目線だけではなく経験豊富なメンバーを多く集めていて、そのメンバー達でお助けします。やる気スイッチを入れ、協業した会社の強みを気づかせる。自分たちだからこのプロジェクトが出来上がっていると感じていただける協業をすることが、自分たちの役割だと思っています。
ーー今後、スゴロックスとしてどのように事業を拡大する予定なのでしょうか。
西山氏:事業は三つの柱を用意していて、現在はゲームエンターテイメント、将来的にはリサーチ事業と教育事業をやろうとしています。ご縁があって専門学校や大学のお手伝いをさせていただいたりしているので、その部分も疎かにしないで取り組んでいきたいです。
スゴロックスが目指すゲーム作りとは
ーー御社HPで対戦ゲームを作るという文字を目にしました。なぜ「対戦ゲーム」という括りにされたのでしょうか。この言葉を選ばれた理由や背景を教えてください。また、対戦ゲームはユーザーにどのような影響を与えられるとお考えですか。
西山氏:やりたいことを考えた時に、コミュニティや絆、エンタメでユーザーを楽しませることが頭にあって、絆を生み出しやすいジャンルは協力ゲームと対戦ゲームのどちらかになると考えました。対戦ゲームに絞ったのは、一対一の勝負をしていると、相手のプレイスタイルやデッキ構成などを知っていくので「前、対戦したね」「何勝何敗だね」などのユーザー間で前向きなコミュニケーションが取れるからです。学生時代の部活動でよくあった事をゲームでも味わってほしいです。
日本はゲームセンターの文化が強かったですし、世界でも一番熱い国だったのですが、気がついたら韓国がeスポーツという言葉を生んで、アメリカが商業化させていきました。僕の中では対戦ゲームだけはこだわりたかったので、対戦ゲームを通して絆を大事にすることで、素晴らしいコミュニティを作れると考えています。
ーー今後、どのようなゲームを世に送り出そうとお考えでしょうか。
西山氏:僕がゲーム作りのキーワードにしているのは「魔改造」です。面白いゲームがたくさんあるのですが、面白くても全然売れないものもあります。時代に合わせて同じアクションゲームでも、女性向けに作るのと、30代向けに作るとなると全然違います。コンセプトがズレたら売れないですよね。
僕の中ではゲームは人の繋がりだったり、感情を揺さぶる体験を作ってくれていると思っています。その体験が一番分かりやすいのが対戦ゲームだと思っていますが、時代の流れ次第では対戦ゲームではない体験を作りに行くかもしれないです。必要とされる人たちに向けて、ちゃんと魔改造したゲーム(体験)を届けたいですね。
ーーAIやWeb3など最近注目されているテクノロジーの部分については何か取り組みを計画していますか。
西山氏:僕はeスポーツのトップは一握りしかいなくて、1,000人ぐらいだと思っています。例えば、サッカーだとプレミアリーグのようなリーグがあったり、メッシみたいなスター選手は凄い、けれどもそれに該当する選手の総数は多くないみたいな話と一緒です。それでもここまで産業として規模が大きいのは産業の樹形図があって、ゲームをはじめ、選手やチームを応援する等のコミュニティを運営している方々がたくさんいるからです。
無償に近い形で応援する活動をされているそういった方々に何かお返しをしたいと思った時に解決できそうなのがトークンやNFTを応援のインセンティブとして渡すことでした。自分が応援する対象に対して自分が行ったポジティブなアクションがトークンやNFTとして自分にも他人にも誇れるものになればゲームにとってもユーザーにとってもWin-Winな関係性を作れると思いました。
これらは一例ではありますが、ブロックチェーンの仕組みは、ゲームのマーケットやコミュニティにとって大事なものになると信じてゲーム作りに着手しています。
ーーAIに関してはどのような考えをお持ちなのでしょうか。
西山氏:こちらも例を出して説明します。対戦ゲームは運営が長くなればなるほどパラメーターが複雑になったり、キャラの種類が多くなっていくので後発のユーザーにとっては参入のハードルが上がってしまいます。後発のユーザーがこの問題をどうキャッチアップするのかと考えた時に、もし自分がこのゲームにハマっていて、その時のゲームバランスに合ったプレイ方法を教えてくれる仲のよい友達がいたらやれると思いませんか。この教える友達役をAIが担ってくれると考えています。
具体的には、ナビゲーションやトップ選手のゴーストを作ることもできますし、モデル生成やパターン、Botが喋ってくれるようなこともAIが担うことが可能です。このようなAIを活用したコンテンツを積極的に作っていきたいと思っています。
ゲーム業界のために必要とされるなら限界までやり続ける!生涯現役のゴール無き道を突き進む
ーー今後のゲーム業界はどのような発展を遂げていくとお考えですか。また、その発展にスゴロックスはどのように関わっていこうとお考えでしょうか。
西山氏:コロナの影響で過去最高益のゲーム会社が続出していて、グローバルのユーザーが日本の価値に気づいた感じがしています。コロナで余暇時間が増えて面白いことを探した時に、一番注目されたのが日本のIPやゲームだと思っています。現在はコロナが落ち着いたと思うので、ここでトーンダウンするのではなく、ここからさらに日本の価値に気づかせることが重要です。
その上で、AAAタイトルでないとダメな流れがまだ続くと思っていて、中堅のゲーム会社だと難しいですよね。どんどんAI等が便利になってきている中、開発体制を整える必要が出てきています。大手ゲーム会社では、映画を凌駕するような世界を作り出したりしているものもあります。
一方でハイパーカジュアルゲームのブームがあって、現在はインディーゲームが流行り始めています。要はスマホゲームのマーケットが、みんな疲れてきてブランクに陥ってきています。スマホゲームがこのまま無くなるのか、もう一回復調するのかは勝負どころだと考えています。
また、外資企業がAAAモバイルゲームを出してマーケットを埋めたりしています。そこに対して『スゴロックス』にお金があって、自社パブリッシュができるような体力が生まれたなら、対戦ゲームで世界一を取りにいきたいですね。何年かかるか分からないのですが、会社のコンセプトの延長線上での目標です。
当面は、自社の利益だけに囚われずに業界のみなさんが喜んでもらえる取り組みをしていきたいと考えています。関わった人が喜んでくれるのならデメリットのことを考えずに行動に移しちゃいます(笑)そうすると自然にみなさんが喋りかけてくれてトレンドを追うことができるので、プロデュースや企画に関してお手伝いができると思うんですよ。
ーーお二人が抱く最終目標があれば教えてください。また、目標に向かってどのような取り組みをすれば、実現できるとお考えでしょうか。
西山氏:僕はセガでキャリアを積ませていただいたので、セガに対して恥ずかしくない存在になりたいと思ってます。一方でセガの仕事だけをやっていたらおかしいと思うので、色々な分野にチャレンジしようとしています。日本はサラリーマン文化がすごく強いんですけど、背伸びをしなければ独立しても大丈夫だと思っています。無鉄砲に4人で出て「やべえ!パソコンどうするんだ!」と騒いでいる人もいますしね(笑)
小川氏:死ぬまで現役、「もう無理!」というところまで行ければと思っています(笑)僕の勝手な考えなのですが、定年に向かうにつれて抑え気味に仕事をする方もいると思います。僕は今年で57歳なのですが、逆で歳をとるほどにフルスピードで走っていきたいと思っています。僕の中では現役のまま使ってもらえる、必要とされているから頑張れるので、周囲から求められる基準をキープできなくなったら辞めると思います。
西山氏:実は『スゴロックス』には定年はないです。小川と話をしている中で、僕も誰かに決められたくないので無くしています。これは僕が作ったルールなので定年が悪いと言う訳では無いです。新しいことを追い求めるということは、新陳代謝をしないと継続できないとも思っています。でもやれるなら、やり続けたいですよね!
アウトプットに対してフェアディールな形でやりたいと言い続けてくれる限りは、生涯現役でいいと思っています。それを実現するためには、一人一人を見られる方が良いと考えています。ゲームのようなハートフルなものを作っているのに、個人のことを見られないのは良くないですよね。
読者に向けて一言
ーースゴロックス社として今後従業員を増やして事業を拡大されていくと思うのですが、どのような方を増やしていきたいなどはありますか。
西山氏:色々な機能が足りなくても走り出す会社なので、足りない部分を自分で埋めるホスピタリティが高い方を求めています。グローバルで自社パブリッシュも見据えているので、色々な企業の橋渡しをする役割に対して、情熱を捧げる方と一緒に働きたいです。ダイバーシティな会社で働き方も含め柔軟にやっていますので、興味があればお声掛けください。
ーー最後に読者の方に向けてコメントをいただいてもよろしいですか。
西山氏:来月から具体的な取り組みをバンバン出していくと思いますので、ぜひ楽しみにしてください!企画の持ち込みもウェルカムなので、パブリッシャーとディベロッパー、その他ゲーム業界のエコシステムの中にいる各プレイヤーの中核にいる会社が『スゴロックス』だと思っていただければ嬉しいです。可能な限りお役に立ちたいと思っています。
小川氏:すぐにすごいことは出来ないと思うのですが、頭の隅に覚えておいてくれたら嬉しいなと思います。僕らのやりたいことは一年とかでは出来ないと思うので、一年後にどうなっているのか楽しみにしてください!
ーーお忙しい中、ありがとうございました!
『スゴロックス株式会社』の概要
© Sugorocks Inc.
[取材協力:スゴロックス株式会社]
(編集・執筆/ゲーム山本)