eスポーツ好きなら知らない方はいないであろうプロeスポーツチーム「ZETA DIVISION」。今回は、そんな名実ともに日本トップクラスのeスポーツチームを運営する、西原大輔氏に直撃インタビュー。1月に開催された『日本eスポーツアワード』の振り返りや、今後のesports業界についてたっぷりと話を聞くことができたので、ぜひチェックしてみてほしい。
自己紹介
ーーまずは自己紹介とこれまでの経緯やチームを持つきっかけを教えていただいてもよろしいですか。
西原大輔氏(以下、西原氏):GANYMEDE株式会社の代表取締役を務めている西原大輔と申します。プロeスポーツチーム「ZETA DIVISION」のオーナーも兼任で務めています。2016年に「オーバーウォッチ」が発売されたのをきっかけに、本格的に選手を支える側にシフトしたのが始まりです。昔からesportsに区分されているゲームは友人と一緒に遊んでまして、それに付随して観戦者として海外の競技シーンとかは良く見ていましたね。
始まりは、オーバーウォッチでプロにも劣らない活躍をしていたアマチュアチーム「Green Leaves」を見つけた時です。その頃はesportsを取り巻く環境が今とは全然違いましたから、アマチュアからプロになるハードルが今以上に高かったんですよね。だからこそ、1ファンとしてもっと輝かせたいという、世話を焼きたくなっちゃいまして(笑)。そこで連絡を取り合うようになってから、徐々にesportsの裏方部分にも携わっていくようになりました。
そして、それからもどんどんと躍進を遂げていくチームを見ている内に、世話焼き魂に更に火がついてしまって(笑)。どうにかして「プロとして羽ばたかせてあげたい!」と思うようになりまして。どうすればこの子達がプロとしての活動を始められるようになるかを模索するようになりました。
ただ、僕はその時クリエイティブ制作会社を運営していたので、そっち方面でのサポートくらいしか満足には出来なかったんですよ。だから最初はチームを持つという事も考えていなくて、当時は知り合いのツテを使ってマネジメントしてくれる会社を探すような形で動いてましたね。結果的にサポートしてくれるマネジメント会社さんも無事見つかりまして、プロとして活動を始めたチームを見て、少し感動しちゃいました(笑)
それからもオーバーウォッチを通じて色んな制作会社やコミュニティリーダーさんとの関わりは増えていって、それが今も仲良くさせていただいているプロチームのオーナーさんと出会うキッカケにもなってました。当時はどこかのesports大好きおじさんデザイナーくらいな印象だったのかなと思うんですけど(笑)
そうやって関わりが増えるにつれてesportsに関連した制作受注も多くなりまして。その辺りから後のZETAの親会社となるGANYMEDE株式会社を設立しました。ここから、元々やっていたクリエイティブ関連の仕事に加えて、コミュニティのイベント受注も行うようになりました。
そこから少し経って、ウチのスタッフが所属していたハースストーンのコミュニティに居た子達が、PUBGの大会『GeForceCUP PUBG #02 SQUAD』に出場して、何と優勝しちゃいまして。
その大会の後に、PUBGのαリーグが開催されるという発表があったので「せっかくだからウチもチームを作って参加しよう」となって出来たのが、ZETAの前身となるチーム『JUPITER』設立のキッカケです。当時のPUBG部門のメンバーはウチのスタッフを始めとして、先ほど申し上げたハースストーンコミュニティの子だったり、あとは今でもストリーマーとして活躍されている方だったりで構成されていました。
大体ですが、ここまでがチームを持つに至るまでのキッカケですね。
ーー紆余曲折あったんですね。
西原氏:そうですね。それからは会社としてもチーム運営を軸とする方針転換を行ったり、それに伴って部門を増やしたりと、コツコツとではありますがesportsチームとしての活動を進めてました。
その後CS:GOで活躍していたLazやcrowがいたAbsoluteのメンバーと話しをする機会にも恵まれ、Valorantのリリースと共に加入が決定したりして。その辺りから、所属選手達の頑張りもあって着実にチームとしての認知度を伸ばしていきました。そして、2021年にはチーム名やロゴを変更するリブランディングを行い、遂にZETA DIVISIONとしての活動をスタートさせるに至った、って感じですね。
『日本eスポーツアワード』の受賞を振り返る!
ーー改めて『日本eスポーツアワード』で最優秀esports賞を受賞した時のお気持ちを聞かせていただいてもよろしいでしょうか。
西原氏:当時とあんまり変わらないですね(笑)囲み取材の時に皆さんにお話しした事とあんまり変わらなくて、具体的な選考基準が分からないので、何を持って自分達がesportsチーム賞を受賞できたのかは分からないんですけど、結果を出してきた事でコミュニティからも信用していただいているってところが審査員の方々にも伝わったからなのかなと思ってます。なので、選手達の日々の頑張りというか、結果があってこそですね。
ーー選手達の頑張りがあってこその受賞、という事ですね。
西原氏:はい、だと思ってます(笑)
選手ファーストの環境を提供し続ける!父親のような素敵な素顔が待っていた!
ーー選手達がトロフィーを受け取る姿を見た時のお気持ちを伺ってもよろしいでしょうか?
西原氏:もう親の気持ちですね(笑)
ーー「良く頑張ったなぁ」というお気持ちで見られていたという事ですか?
西原氏:そうですね。そもそもノミネートされた時点で凄い事だと思っているので、本当にみんな良くやってくれたなぁという気持ちでしたね。
ーー個人的には、あcola選手が三回も受賞したのが驚きでした。
西原氏:いやもうビックリしましたね。特に格闘ゲーム部門というのはストリートファイターとか、凄い実績を積み重ねてきた有名な方々がズラッと並んでいたので、本当にまさか!という感じでしたよね。え!?って(笑)
最優秀選手についても、誰が選ばれるんだろうって見ていました。何となく、日本でも人気のあるタイトルのValorantとかから選ばれるのかなと思ってました。特にウチに所属しているLazとか、esports選手としての姿勢や立ち振舞いは日本のFPSプレイヤーに良い意味で影響を与えていると思っていたので、選ばれる可能性は高いかなぁと想像してました。
そこでまさかのあcolaだったので、本当にビックリでしたね。
ーーまだお若いのに素晴らしいですね!今後の活躍も楽しみです。
西原氏:そうですね。あcolaを含め、今後も所属選手が伸び伸びと活躍できるよう、全力でサポートしながら見守っていくつもりです。
今後の活動についてと今に至るまでの道のり!
ーー今後新しい挑戦や取り組んでみたい事ってありますか。
西原氏:今までと変わりなく、ウチに所属している選手やストリーマーがやりたい事については引き続き全力でサポートしていくつもりです。地盤を固めるって感じですかね。ちょっと新しい挑戦って質問からはズレちゃうんですけど(笑)
競技シーンで頑張っている選手・各チーム・部門については、やっぱり勝たせてあげたいと思っていますし、そのために僕らは何をしてあげればいいのか、どんな環境を提供してあげればいいのかという事を日々考えつつ、マネジメントを行なっていければなと。
ストリーマーに関しては、各々のファンだったり配信のリスナーだったりの、コミュニティの皆さんにどうすれば喜んでもらえるか、驚いてもらえるかという事を日頃から考えてマネジメントを行なっています。僕達が提供するコンテンツから、配信やesportsという競技の文化の面白さだったり楽しさだったりにもっと触れていただいて、少しでもファンの方々の日々が豊かになる手助けになればいいな、というスタンスを持ってます。
この辺りはどこのチームも一緒だとは思うんですけど、僕らもそこはブレずに今後も活動を続けていければと常々思っております。
ーーesportsアワードの囲み取材の時もおっしゃっていた、esportsチームの運営する事の難しさについてもお聞きできればと思うのですが、どの部分が一番大変だったでしょうか。
西原氏:言ってましたっけ?(笑)
ーーおっしゃってました(笑)
西原氏:色んな面で難しいなと感じる部分が沢山あるんですよね。これは他の方々も言われている事だとは思うんですけど、例えば、野球やサッカーのようなメジャーなスポーツって、小学生の頃からしっかりとした顧問・コーチや先輩が居る環境が用意されていて、技術を学びながら将来を見据えた教育を受けられるので、中学生ぐらいにはプロとしてやっていく覚悟が育ちやすいんですよね。
それで言うと、esportsは幼い頃から「プロゲーマーになりたい!」と志せる環境が中々無いじゃないですか。今の時代だとそれなりにはあるのかなとも思うんですけど、現在プロとして活躍されている選手達とかは特に「気づいたらプロになっていた」って境遇の人も多いと個人的には思ってまして。
そんな境遇だからこそ、いきなりチームに所属してプロになって「明日から君はチーム所属のプロです、だからちゃんとしましょう」って、急には難しい事だと思うんですよ。選手としての実力だけじゃなくて、ファンの方に応援されるような立ち振舞いも必要になって、大きな課題が目の前に増えちゃう感じです。
ーー確かに、特に若い頃にいきなり品行方正さを意識するというのも難しい話ですよね。
西原氏:社会人だったらまだ腑に落ちやすいと思うんですけど、esportsって競技事情的に若い子がやっぱり多いので、いきなり大人な立ち振舞いを求められるのは酷だなって。プロとしてやっていく覚悟も定まり辛い環境ですからね、だからこそ選手の精神的な部分については、チームとしても気をつけてマネジメントするようにしています。
ーーありがとうございます!少し話は変わるんですけど、これまでのチーム運営での転換期とか、印象に残ったエピソードって何かありますか?
西原氏:僕らの話で言うと、チームにAbsoluteのメンバーが加入して、そこからValorantでの活動が始まった所が転換期でしたね。それまではチームとしてのバリューがあまり無かったので、選手の補強が上手く出来ないこともあり、悔しい思いをしてました。
ーー選手としても安心できる環境に身を置きたいという気持ちがあるでしょうし、難しい話ですね。
西原氏:その教訓が今のZETAの運営ポリシーに繋がっていて、選手が安心して加入を検討できるようなチーム運営を心がけています。実際、選手がチームを選ぶ理由の内情って本人以外は分からないじゃないですか。そこで「選手に選んでもらえるチームになるにはどうすればいいんだろう」って考えた時に「長く続けて結果をだして有名なチームになる」みたいな漠然とした理由だと、根本的な解決にはなっていないと思ったんですよ。
もっと理由を咀嚼しなきゃな、と考えて行き着いたのが「あのチームしっかりしてるから安心できるよね」って事をコミュニティ全体の共通認識として持って貰う事だったんですよ。何よりも選手がプロとして安心して活動ができるチームにするために、特に所属選手とは密にコミュニケーションを交わして、信頼してもらえるようなチーム運営を心掛けてました。
ーーこれまでの苦い経験もあったからこそ、今のZETAが形作られているんですね。
西原氏:そうですね。少し驕った感じに聞こえたら申し訳ないんですけど、今でこそ悔しい思いをしていた頃と比べれば、選手からも「加入したい」と思われるようなチームに少なからずは成長したのかなと思ってるんですけど、そこに至るまでが大変でしたね。
Valorant部門のメンバーが頑張ってくれた事が認知拡大に繋がったり、関優太やk4senをはじめとする魅力的なストリーマーの加入、自分達が元々クリエイティブな仕事をやっていたからこそ出来た事があったりと、色々噛み合った結果、某ゲーム用語で言うと上手くスノーボールが出来たんじゃないかなって思ってます。
ただ、今でも浮ついた運営は全くしてなくて、身の丈にあった経営と運営をしていってます。ZETAは大企業が事業として運営するような大きな後ろ盾も無いですから、常に気を付ける事ばかりですね。
今後のeスポーツの展望は?日本屈指のeスポーツチームオーナーが語る
ーー今後のesports業界の発展と、その時のZETAの立ち位置はどのようになっていると思われていますか。
西原氏:自分目線にはなるんですけど、今の日本のesports業界ってそれなりに形にはなっているんじゃないかなと思ってます。これ以上の発展となると、若年層により影響を与えやすい業種ではあるので、その子達のコミュニケーションの仕方に応じて移り変わっていく、競技シーンだったりゲーム配信の文化だったりに上手くフィットできるかどうかが重要になるのかなと思ってます。
例えば、これから何十年後にテクノロジーやプラットフォームの発展に伴ってコミュニケーションの仕方が変化して、それこそ例えばメタバースなんかの新たなかたちで双方向でのやり取りが実現するようになったら、配信という文化の形は間違いなく変わりますよね。
これは一つの例に過ぎないんですけど、若者のコミュニケーションツールの移り変わりによって大会形態もそうだし、配信や動画の見る・楽しむの部分だったりも変わっていくのかなと思ってます。ただ、esportsの「ゲームが主」である部分が変わる事は無いので、競技性のあるゲームが供給される限りは、この文化は無くならないんじゃないかなと。大きくなるというよりは、時代に応じて移り変わっていく、って感じですかね。そこに日本のesportsだったりチームだったりがどうフィットしていくのかが、今後より強く求められている部分なのかなと思ってますね。
それと、実は今の日本って世界のesports業界からしても結構ホットな場所になってると思いますよ。複数の海外チームが日本で部門を設立したりストリーマーを所属というカタチで迎え入れたり。僕からすると黒船が絶賛来港中って感覚です(笑)
ただ「世界からも注目されている!」だけで満足していたら非常に勿体無いなと個人的には思っていますし、正直なところ海外の大手チームに日本市場を取られていくのは日本チーム陣営としては悔しいので、これから先どう発展していくにもしても、そこに日本らしさというか「これが日本のesportsだ!」と胸を張って言えるような形にはしていきたいですね。
ーー形は変われど、これからも日本のesports業界にはどんどん盛り上がって欲しいですね!少し質問とは逸れてしまうんですけど、ZETAに所属する選手の活躍を通して、世界中の人々に伝えたい事ってありますか?
西原氏:esports含めてですけど、スポーツって一定のルール下の中で競い、勝敗がつくじゃないですか。そこに僕を含めた観戦してる人達が応援という形で携わり、時に泣いて時に笑って、そんな感情を揺さぶられる体験をする。それをZETAの活躍を通して感じてもらい、色んな人達と共有して欲しいかなって思ってます。
それこそZETAの活躍を通じて友達との関わりが深くなったり、もっと言うとSNSで海外の人と友人関係になったりとか。esportsとZETAを介して、応援して下さっている方々のコミュニケーションが少しでも豊かになるキッカケになれば良いかな、って部分は結構考えてます。
もちろん友達とゲームをするのは楽しいんですけど、観戦するのもまた違った良さがあるじゃないですか。それこそ普段ゲームはしないけどesportsの大会だけは見てるよって人もいたりして。そういった人達が友人同士となって一緒に大会を見て一喜一憂をする、それって凄く素晴らしい事だと思うんですよ。
時にはオフライン会場まで足を運んでみたりして。その外出の理由が「ZETAの応援をしたいから」とかだと僕達としても凄く嬉しいですし。その外出の過程で物見遊山をしてみたり美味しいものを食べてみたりだとか、そういった応援してくれている人達の人生がちょっとでも楽しく、幸せになるキーにZETAがなっていれば凄く嬉しいですね。それがチームだけでなく、選手達にとっても凄く励みとなっています。
読者に向けて一言
ーー最後に読者、ファンの方に向けて一言お願いできますか。
西原氏:日本のesports業界がどんな形に変わって発展していこうとも、ZETA DIVISIONとしてのスタンスは崩す事なく、今後とも皆様に愛していただけるようなチーム運営をしてまいります。
そして、ファンの方々が自信を持って知り合いにおすすめできるような、誇れるチームとしての活動を続けていきますので、ぜひ今後とも応援よろしくお願いいたします。
ーーお忙しい中のご対応ありがとうございました!
『ZETA DIVISION』の概要
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[取材協力:ZETA DIVISION]
(編集・執筆/ふうた / ゲーム山本)