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泣き声を上げていた母は、おもむろにテーブルの上においてあったグラスを掴むと、壁に投げつけ叫んだ。 「そんなこと言ってもあなたは逮捕されるんでしょう!これからわたしたちどうやって暮らしていけばいいのよッ!」 少しの静寂の後、父は 「すまん」 と、もう一度頭を下げた。 そして母はまた声を上げて泣き崩れた。 ──泣きたいのは僕の方だ。 スネ夫は奥歯を噛みしめた。
「とりあえず骨山のおばさんのところに行っててくれ。父さんには会社の弁護士もつくことになっているし、会社は父さんの味方をしてくれるはずだ。そんなに重い罪にはならないと思う。しばらくしたらお前たちのところへ帰って来るよ」 これからどうなってしまうのだろう。 明日のテストは?これからの高校生活は?もうこの家には住めないのか? 玄関のチャイムが鳴った。 母が顔を拭い、リビングのモニターを覗き込んで「キャッ」と短い叫びを上げた。
「○○テレビですが今の率直なお気持ちをお聞かせ願えますか?」 モニターには、犯罪者を糾弾しようと押しかけたマスコミが画面いっぱいに映っていた。 奥には警察官の姿も見える。 どうやらマスコミと揉めているようだ。 「こんなに早く来るとは。お前たちは裏口から出ろ。父さんは後で玄関から出る」 スネ夫たちは当面の衣服などをバッグに押し込み、裏口へと急いだ。 不意に今朝の電車での会話が思い出される。
ほんの数時間前の、あの平和な時間はなんだったんだ。 これじゃまるでドラマじゃないか。 スネ夫はまだ現実感のないまま、世界史の後に予定されていた数学のテストのことを思った。 今回のテストはもうダメだな。 次頑張ればいいか。 次。 次なんてあるのかな。
待てよ、もしかしてドアを開けたら誰かが「ドッキリ」の看板を持って立ってるんじゃないか。 そんな淡い期待を抱いて、スネ夫が裏口を開けた瞬間、無数のフラッシュがスネ夫たちに襲いかかった。
しずかたちはクラブの中にいた。 しずかもエリカも、家には帰りたくなかった。 最初は2人でマックなどで時間を潰していたのだが、次第にそれにも飽き、繁華街をうろつくようになり、いつからか週に数回のペースでクラブに出入りするようになっていった。 しずかの母は、いまだに不倫を続けているようだ。 しずかが中学のときからだから、もう何年も続いていることになる。
服装も、髪型も、化粧も変わったことに、父は全く気付いていない様子だ。 もう昔のような、あたたかい家族に戻れない。 しずかは家庭そのものに失望していた。 一方エリカは父子家庭であった。 母はエリカが小さい頃に男と一緒に逃げていったと父から聞いている。 エリカには、夫婦のことはよくわからない。 父は一方的に母が悪いみたいなことを言っているが、本当にそうなのか?とも思う。 エリカの父は、とにかく暴力的なのだ。 酒を飲んではよくエリカに手を上げる。
もしかしたら、母はこんな父に嫌気がさして出て行ったのではないか、とも思うのだ。 二人は大音量の空間で踊っているときだけは、家のことを忘れることができた。 それに二人はモテた。 一日に何人もの男たちが声をかけ、酒をご馳走してくれた。 しずかはともかく、エリカはそれが楽しくて仕方ないのだった。 また、しずかは酒が飲めなかったが、エリカは飲むことが大好きだった。 酒乱の父を見て「酒なんか」という思いがあるのだが、そんな気持ちとは裏腹に酒の魅力に取りつかれていた。
しかし今日は体調が悪いせいもあったのだろう、いつもより飲んでいないにもかかわらずエリカはかなり酔っていた。 「遅いなぁ」 エリカがトイレに入ってからもう20分近くが経っていた。 そろそろ終電の時間だ。 終電を逃してしまうと、タクシーでいくらかかるか見当もつかない。 しずかは狭い通路抜けて女子トイレに入った。 2つあるドアのうち、閉まっているのはひとつだけだ。 ドアをノックする。 「エリカ、大丈夫?」 返事はない。 もう一度、強めにノックする。
「エリカ!もう行こう。電車なくなっちゃうよ」 しばらくしてエリカの弱々しい声が返って来た。 「…うん、大丈夫」 エリカがこんなに酔うなんて珍しいわ。 しずかは時計を気にしながら、その場でエリカが出てくるのを待つしかなかった。 結局エリカがトイレを出てきたのは、もう午前1時近かった。 おそらくもう電車はない。 しずかはエリカに肩を貸しながらフロアを横切っていく。 途中、誰かと肩がぶつかった。
「あれ、まだいたの?友達大丈夫?」 さっき声をかけてきた2人組の男だ。 「大丈夫よ。もう帰るわ」 と歩き出した途端、しずかは何かにつまずいて転んでしまった。 「おっと」 男に抱きかかえられると、しずかは「キャッ」と反射的にその手を払いのけた。 「おいおい、助けてやったのにそんな風にしなくてもいいだろ。つか友達ヤバいんじゃね?送っていこうか?」 「ごめんなさい。いいの、大丈夫。何とかして帰るから」 しずかが体勢を立て直し、歩き出そうとした瞬間右足に激痛が走った。
「痛っ」 さっきの転倒で足をくじいてしまったらしい。 どうしよう、これではエリカを運べない。 「ほらぁ。送っていってやるよ。俺たち何もしないから心配すんなよ」 なあ、ともう一人の男に話しかける。 「送ってってえ」 突然エリカが甘えた声を出した。 「エリカ起きてたの?」 しずかがびっくりしてエリカを見る。 「ねぇ、送ってってえ」 「ほら、エリカちゃんはそう言ってんじゃん。行こうぜ。あんま遅くなるとマズイんだろ?」
男に触られることも嫌なのに、見知らぬ男の車に乗るなど、しずかはまっぴらごめんだった。 「タクシーで帰るからいい」 しずかがエリカの手を取って行こうとすると、 「いや!あたしは送ってもらうんだから!」 「エリカなに言ってるの。さ、早く帰ろうよ」 と、なおもエリカの手を引くと、エリカはそれを振りほどいた。 「いやよ。しずかはかわいいからいつもモテるだろうけど、あたしになんて誰も声かけてくれないじゃない。あたしだってチヤホヤされたいんだから!」 「エリカ…」
こんなエリカを見るのは初めてだった。 何も言えず立ち尽くすしずかをよそに、男はエリカを抱えて歩き出した。 「ちょ、ちょっと待ってよ。私も行く」 エリカを放って勝手に帰るわけにいかない。 しずかはエリカと共に男たちの車に乗り込んだ。 車は順調にエリカたちの家の方向へ向かっているようだ。 これなら安心かも、しずかがそんなことを考えていた矢先、エリカが吐き気を催した。 男が急ブレーキをかける。 「おいおい、この車新車だぜ?吐くのは勘弁してくれよ」
車を路肩に寄せ、エリカを降ろしてみたものの、吐くまでには至らないようだ。 エリカは依然グロッキー状態である。 車に戻るとしずかは 「あとどれくらいで着きそう?」 「今日は道が混んでるからなあ、まだ結構かかるよ」 仕方ない。ここまで来てしまったからには男に任せるしかない。 「どこかで休憩してく?」 助手席に座っていた男が口を開いた。 しずかの全身に鳥肌が立つ。
エリカw
「いい。大丈夫だから。ね、エリカ」 しかしエリカはもう話せる状態ではなかった。 「そんなこと言ったって、車の中で吐かれたらたまんねえし。いいじゃん、ちょっと休憩するだけだよ」 「休憩ってラブホテルとか行くんでしょ?そんなの嫌よ」 「しょっちゅう行ってるくせに」 ゲラゲラと笑い転げる二人。 車はやがてラブホテル街へと入っていった。 「嫌っ!降ろしてよ!」 「何もしないってば」 大声で叫ぶしずかと男の笑い声の中、車はラブホテルの駐車場に吸い込まれていった。
ドアが開けられ、運転席の男がエリカを抱えてさっさとホテルの中へ入っていく。 「ほら、エリカちゃん行っちゃったぜ」 しずかは震えながらジッと座っていたが、自分だけここにいるわけにもいかない。 「絶対に何もしないで。何かしたら警察呼ぶから」 「わかったよ、とりあえず行こうぜ」 部屋に着くと、男がエリカの服を脱がせているところだった。 「なにしてんのよっ!」 「服着てたら苦しいだろ?脱いだら楽になるよ」 とニヤニヤした笑いを浮かべる。
「何もしないって言ったじゃない!」 しずかが服を脱がせている男の腕をつかんだ。 「うっせえな!」 男がものすごい力で手を振りほどく。 しずかの足はカタカタと震えだした。 男はエリカの下着に手をかけている。 エリカは眠ったままだ。 しずかの目に涙がにじむ。 「ドラちゃん、のび太さん、たすけて…」 しずかの脳裏には、なぜかドラえもんとのび太の姿が鮮やかに蘇っていた。
もう一人の男がしずかをベッドに押し倒した。 「嫌アアアアァァ!!!」 足掻くしずかを男は力任せに押さえつける。 「お前だっていろんな男とヤリまくってんだろ?え?」 そして男はしずかにのしかかり、しずかの口に舌をねじ込んだ。 しずかの目から涙があふれる。 どんなに力を込めても、男の腕はピクリとも動かない。 ドラちゃん、のび太さん、たすけて…。
~高校編3~ 時は、のび太の中学校卒業間近にさかのぼる。 「つまんないな」 のび太は、一人ごちて家路についていた。 思い返せば、冴えない中学時代だったと思う。 ドラえもんのいた頃が懐かしい。 あの頃はみんなでよく冒険をしたものだ。 「ただいま」 のび太が階段を登りかけると、居間の方から母の声が追いかけてきた。 「お友達がみえてるわよ」 誰だろう。襖を開けると、ミドリが立っていた。
「ミドリちゃん」 「のび太さんおかえりなさい」 ニッコリ笑いかけるミドリ。 「どうしたの突然。またなんかのトラブル?」 するとミドリは急に神妙な顔つきになって、 「今日はね、すごく大事なお話をしにきたの」 のび太は、なんとなくこうなるような気がしていた。 ミドリを見た瞬間から、なにか大きな運命の歯車が回りだすような、そんな予感がしていた。 「ミドリちゃんって、ドラミちゃんでしょ?」 「うふふ、そうよ。さすがねのび太さん」
のび太は笑いながら、 「ドラミちゃんを知ってたら誰でも気付くよ。ねえ、そんなことよりどうしてドラえもんはいなくなっちゃったの?もうここには来れないの?一体何があったの?」 まくし立てるように疑問を口にする。 「ちょっと待って。順番に話をするから」 のび太はドラミに座布団を勧め、自分は学習机のイスに座った。 「うーん、どこから話せばいいかな」 ドラミは首をかしげ 「まずね、いきなりの話なんだけど、2200年初頭に地球は滅んでしまうの」 「えっ」
それはあまりにいきなりすぎる話だ。 「正確には、まず人類が滅んで、次に地球そのものが崩壊してしまうの」 ドラミの話はこうだった。 様々な要因が複雑に絡み合って、温暖化を始め地球規模の異常気象が頻発し、生態系が崩壊を始める。また高度医療・文明の発達により人口は爆発的に増え、利便性を追求することによる環境破壊が加速度を増す。しかし、やがて人類は大規模な飢饉や疾病に襲われ自滅の一途を辿る──。
それを予知した国際最高議会(ISA)は、未来の地球を救済するために緊急討議を重ねる。 その結果出された結論とは、「許可なき者の、過去への渡航を一切禁ずる」というものであった。 未来の文明が過去に流出することにより環境破壊等が加速したのであれば、それを阻止しなければならないというのがISAの言い分だった。 しかしそこには裏があった。
世界各国の富豪や権力者で構成されるISAは、高度な情報文明が過去に流れることによって民衆が革命を起こし、自分たちの思い通りにならなくなることを予見していた。また化石燃料や鉱物資源をはじめとする自然資源や、特許や知的財産の占有をも目論んでいた。 つまり一部の人間による、歴史操作が行われようとしていたのだ。 それに気付いた一部の民衆は決起し、各所で人民解放軍が蜂起した。 ドラミはその混乱の隙を突いて、こうしてのび太の元へとやってきたのだという。
「それでドラえもんが来れなくなっちゃったのか…。で、ドラえもんは今何をしてるの?」 「お兄ちゃんは解放軍のリーダーをしてるわ」 「へえー!あのおっちょこちょいのドラえもんが!?」 のび太は笑いながら涙があふれそうになった。 ──ドラえもんは生きている。
もう会えないかもしれないが、それが何よりうれしかった。 「話はだいたいわかったよ。で?」 一瞬間があって、 「ISAの魔の手は、のび太さんたちにも襲いかかってくるの」 「どうして?僕たちなんて何もできない一般市民だよ」 ドラミは首を横に振った。 「いいえ、私たちの未来はあなたたちにかかっているのよ」 「どういうこと?」 「スネ夫さんは新しく制定される人民憲法の創設者、タケシさんは第1期解放軍のリーダー、出来杉さんは新生日本の初代総理大臣になるのよ」
「マジ?すっごいねそれ!信じられない。で、僕は?ねえ僕はどんな風になるの?」 ドラミは少しうつむいて、 「のび太さんは未来とこの現代をつなぐパイプ役なの…」 「え…それだけ?」 肩を落とすのび太。そして自嘲気味に笑う。 「そりゃそうだよな。うん、僕はどうせ何をやってもダメなんだから」
「そんなことないわ!その役目はのび太さんにしかできないことなのよ。それってすごいことなんだから。特別なんだから」 のび太はドラミを手で制して、 「そんなにフォローしなくてもいいよ。ありがと」 苦笑いを浮かべるのび太。 「あ、そういえばしずかちゃんはどうなるの?僕と結婚するんだよね?」 ドラミの顔がさらに曇る。 え?何だよそのリアクション。 気まずい沈黙が二人の間を流れる。
ドラミは言おうか言うまいか逡巡した後、 「隠しても仕方のないことだから言うわね。のび太さん落ち込まないでね」 嘘だろ?ちょっと待ってくれよ。 「しずかさんは出来杉さんと──」 「ちょっと待った!」 「もういいよ。もう聞きたくない」 のび太は襖を開けて階下に行こうとした。 とてもこの場にいられない。 「…のび太さんごめんなさい。私たちのせいだわ」 ドラミの声は涙声に変わっていた。 襖を開ける手が止まる。
「私たちが不甲斐ないばっかりに…。本当ならのび太さんはしずかさんと結婚してたの。けれどISAが好き勝手に過去をいじくりまわしたものだから、未来がめちゃくちゃになってしまって、それで──」 「…で」 ドラミがのび太を見る。 「それでしずかちゃんは幸せに暮らせているの?」 のび太はドラミに背を向けたまま尋ねた。 「それは─、それは私にはわからないわ。でもきっと幸せだと思う」 のび太はドラミを振り返った。
「出来杉くんかぁ、ならいいや。しずかちゃんが幸せならそれでいいや」 「のび太さん…」 「本当のこと言うとさ、僕もおかしいなってずっと思ってたんだ。いつまで経っても僕はダメな奴のままだし、しずかちゃんはどんどんかわいくなっていくしさ。誰がどう見たって釣り合わないよね」 口をゆがめハハッと声を出すも、のび太の瞳は悲しみに揺れていた。 「のび太さん…」 「話ってそれだけ?」 「あ、ごめん。一番大事な話を忘れてた」 その後ドラミの口から語られた話は驚くべき内容だった。
「ありあとやんしたァ!」 威勢のいい声が剛田商店に響き渡る。 ジャイアンは母と二人でお店をやっていた。 「お兄ちゃん行ってきまーす!」 ジャイ子が元気よく高校へと向かう。 中学時代から麻薬を売りさばいていたジャイアンは、いつしかかなりの額を稼ぎ出すようになった。 折りしも妹のジャイ子が高校受験を控えていた時期であった。
食べていくのが精一杯の生活の中で、ジャイ子は塾に通うこともできず、また店の手伝いに忙殺されていたため、受験勉強など満足にできるわけがなかった。 中学3年の進路指導で、 「剛田さんは真面目だから、この高校であれば学校から推薦してあげられますよ」 と教師が指差したのは、入学金や学費の高いことで有名な私立高校であった。
高校に進学できなかったジャイアンは、何としてでもジャイ子を高校に行かせてやりたかった。 母を裏切っていると知りつつ、真面目に仕事をしてると嘘をつき、黒い金を稼ぐことに夢中になった。 そしてその金を貯め込んだ通帳をジャイ子に見せたとき、ジャイ子は涙を流して喜んだ。 「あたしのためにここまでしてるなんて…。言葉にできないくらいうれしい」 と、ジャイアンのゴツゴツした手を握り、涙を落とした。母も、 「お前がこんなに立派になるなんて。父さんも天国で喜んでるよ」 と涙ぐんだ。
一人ジャイアンだけが奥歯を噛みしめていた。 (俺はそんな立派な人間なんかじゃねえ。俺の手は、俺の手には麻薬の臭いが染み付ちまってんだ) 次の日、ジャイアンは組織を抜けた。 ひどいリンチを受けて身体も精神もボロボロにされながらも、ジャイアンの心は最後まで折れなかった。 その強いまなざしの奥にはジャイ子と母の笑顔があった。
「母ちゃん、少し休みなよ」 ジャイアンが店に入ってから、安心したのだろうか、母は体調を壊しがちだった。 「じゃお言葉に甘えさせてもらおうかねえ」 母が店の奥に消えてふと外を見ると、道端に意外な顔があった。 「ユタカ…さん」 ジャイアンがユタカに近付いていく。 「あの剛田が乾物屋とはなァ!」 「大声出すのやめてもらえんスか」 「ツラ貸せよ」 ジャイアンの胸に黒い不安が広がっていく。
ユタカは人気のないところまで来ると、 「お前に頼みがあってよォ。コレ捌いてくれよ。お前なら楽勝だろ?ヒヒヒ」 ユタカは耳元で囁いて、白い粉の入った包みを渡してきた。 「これ…シャブっスか」 「頼むよ、なァ。俺もこないだ正式な盃もらってよ、今が一番大変なときなんだよ。わかるだろ?」 「もう俺はあのとき足を洗ったじゃないスか」 ジャイアンがそう言うと、ユタカの顔色がサッと変わった。
「おいコラァ。テメエみたいなクズがそう簡単にこの世界から逃げられるとおもったら大間違いだぞ。お?」 さらに狂気を増したユタカの眼光がジャイアンを貫く。 「お前あの店が潰れちまったら悲しいだろ?かわいい高校生の妹もいるんだしよォ!」 奥歯をきつく噛みしめる。 ジャイアンの中に抑えきれないほどの怒りがこみ上げてくる。 「んだとコラァ…!」 「あ?お前ヤクザ者に手ェ出すんか?おうコラァ!!」 しかし、睨みつけた下品なユタカの顔の先には、ジャイ子の顔があった。
ジャイアンは長い息をひとつ吐き出し、 「これで本当に最後スよ」 「わかってるって!さすが剛田。とりあえずモノがモノだからよ、捌くにもやり方ってのがあるんだよ。ちょうど今から取引すっからついて来い」 連れられた先は、パチンコ屋だった。 タバコの煙と喧騒が充満する中、ユタカがパチンコをしている一人の若者をアゴでしゃくった。 「あいつが俺の常連さんだ。ヒヒヒ。まぁここで見てろ」
ここからでは若者の後姿しか見えないが、どこか見覚えがある。 若者の隣に座ったユタカは、さりげなくタバコを交換し、席を離れる。 これで取引は終了ってわけか。 続いて若者も席を立った。 「──スネ夫?」 まさかそんなはずはない。あいつは確か出来杉と同じデキのいい高校に行ってるはずだ。少し前、親父さんのことでいろいろあったみたいだが、あいつが覚せい剤に手を出すなんてありえない。 ジャイアンは若者の後を追った。
若者の肩をつかんだ。 若者は振り返って目を大きく見開いた。 「ジャ、ジャイアン…」 「やっぱりスネ夫か」 ユタカが追いかけてきた。 「おい剛田、お前何やってんだ。ん?知り合いなのか?」 「…ダチッス」 ユタカが弾かれたように笑った。
「ワハハハハ!こいつはおもしれえ!よし、じゃあこいつは俺からのプレゼントだ。お前にやるよ」 スネ夫はうつむいている。 「また連絡するからよ」 ユタカはそう言い残して店を出て行った。 ジャイアンはスネ夫の首をつかむと、外へと連れ出した。
外はもうすっかり暗くなっていた。 しばらく後、二人はいつもの空き地で向かい合っていた。 「スネ夫、てめえ何やってんだ」 ジャイアンはスネ夫の胸倉をつかんで締め上げる。 街灯に弱々しく照らされたスネ夫は憔悴しきっていた。 「…ジャイアンこそ、あそこで何してたんだよ」 目だけが異様に鋭い。 それは麻薬中毒者特有の目だった。
「俺のことは関係ねーだろ!」 ジャイアンはスネ夫を突き飛ばすと、 「シャブだけはやめろ。お前廃人になりてえのか」 スネ夫は身体を起こして、 「ジャイアンには関係ないだろ」 と吐き捨てた。 「テメエっ!」 ジャイアンの拳でスネ夫の身体はさらに吹っ飛んだ。 「てめえに何があったか知らねえけどな──」 「ジャイアンに何がわかるんだよッ!!」 「スネ夫…」 スネ夫がジャイアンに飛びかかった。
力の入らないパンチがジャイアンの腹や顔を打つ。 「このやろう!、このやろう!」 わけのわからない言葉を叫びながら、スネ夫は何度もジャイアンを殴った。 スネ夫は泣いていた。 泣きじゃくりながら、咆哮を上げていた。 「クソッ」 ジャイアンは暴れ狂うスネ夫を抱きしめた。 「スネ夫ッ!」 それでもスネ夫は泣きながらジャイアンの背中やわき腹を殴り続けた。 「てめえっいい加減にしろよっ!」 太い声が詰まる。 ジャイアンも泣いていた。
ーーーーーとりあえずここまでーーーーー
まぐろ氏登場するのあとどれくらい?
中学生外伝まだ?
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もしドラえもんがいなくなったら、 のび太たちはどんな人生を送ることになるんだろう。 そんな俺の妄想で描く空想小説。 なるべく原作の世界観を踏襲するようにします。