thatgamecompanyが開発したアクションアドベンチャーゲーム『Sky 星を紡ぐ子どもたち』。今回は、そんな本作の開発を支えるリードアーティスト 田邊 裕一朗氏 にインタビューすることができた。開発の裏話や気をつけていること、今後の『Sky 星を紡ぐ子どもたち』についてインタビューすることができたので、みなさんにお届けしていこうと思う。
田邊 裕一朗氏の経歴
田邊 裕一朗氏は、2012年からthatgamecompanyの本社で勤務しており、グローバルでリリースされたゲームのアートを手がけているリードアーティストだ。日本人ながら南米生まれで、日本に住んだことがないという異色の経歴の持ち主で、特殊なキャリアを積んでおり、普通の日本人ではなかなか聞けないお話を聞くことが出来た。
では、早速インタビューの内容をみなさんにお届けしていくぞ!
今回の来日の経緯
ーー海外で働いているとお聞きしたのですが、今回はどのような経緯で来日されたのでしょうか?
田邊氏:7月は僕たちが作っている『Sky』の周年記念を祝して、世界中のコミュニティでイベントを開催するのですが、毎回日本の熱量が凄いんです。僕たち開発チームの中でもJAPANのコミュニティは熱いなって話していて、今回も日本で4周年記念イベントが開催されるということで、ぜひ行ってみたいと思い来日しました!
7/16と7/17の2日間はイベントに参加させていただいて、ファンのみなさんの前でアートの講演をしたり、一緒にスケッチを描かせていただきました。
ーーやはりファンの方との交流って大切になさっているのでしょうか?
田邊氏:去年のアニメジャパンにもちらっと参加させていただいて、ファンの方と交流させていただいた時も熱量を凄く感じて。僕は両親が日本人なので、日本語で直接ファンの方々とコミュニケーションを取れるのですが、言葉が喋れなくてもこういうイベントには開発チームのメンバーを連れてきたいなと思っています。それだけ実際にファンの方と触れ合うと、いただくエネルギーの濃度が違うんですよね。
目の前にファンの方がいると「こんなに大事にしてもらっているんだ!」と感じて、ちょっと胸が詰まりますね。
ーー少しお話ししただけでも、凄いファンの方を大切にしていると感じることができました!
リードアーティストとしてのお仕事
ーーリードアーティストの役割を担っているとお聞きしたのですが、他のアーティストさんとのやりとりとかで気をつけている点や、まとめるコツとかを教えていただけますか。
田邊氏:そうですね。僕と複数人のアーティストでコンセプトを作るんですけど、アーティストってそれぞれ持ち味が違って、独自の感性を持っているんですよね。その感性を尊重しながら作っていきたいといつも思っています。同じ物を作っているんですけど、違うアーティストが集まって作る。全員に同じスタイルで同じ物を描かせるっていうことはやろうと思えばできるんでしょうけど、それでは個性を潰してしまう気がするんですよね。だから、それぞれの感性を活かしつつ、その時々に作るプロジェクトごとの軸になる感情みたいなものを全員で共有して、後はそれぞれに独自の感性で軸に迫る感情体験を考えてもらうようにしています。
最初の軸が共有できていれば、その後は独自の感性で作ってもらえると『Sky』が良い意味でどんどん進化していけるんじゃないかと考えています。
ーー個性は潰さずに作品を作り上げていくんですね。その過程で想像と違った物ができる時もあると思うのですが…。
田邊氏:ありますね(笑)
ーーその時ってどういう対処方法で解決していくのでしょうか?
田邊氏:2通りあるんですけど、目指していた感情体験に近づけない時や技術的に難しいコンセプトは、クリエイティブディレクターやゲームデザイナーなどと話し合いながら修正していきます。
逆に僕が考えてた以上のとんでもないアイディアがドーンっと飛び出したりもするんですよね!「これは思いつかなかった!じゃあこれやろう」となる事もよくあります。
ーーそういう時も臨機応変にご対応なされるんですね!
田邊氏:基本的なルールみたいなのはありますけど、そのルールに沿ってさえいてくれれば、自由に膨らませて広げていってどんどん深く掘っていきたいと思っています。
独特な世界観について
ーー『Sky』では独特な形の建造物が見受けられますが、その独特な形は何をモチーフにして作ったのか、どういう考えでこの形になったのか気になったんですけど、教えていただいてもよろしいでしょうか?
田邊氏:そうですね。僕らのゲームって特定の層に向けて作っているのではなくて、どこの文化の人でも、どの年代の人でも遊んでいただける物を目指して作っています。そのためには何が必要なのかを考えた時に、全員が共通できるテーマを探したんですよね。そのテーマが最終的に3つ出てきまして、1つ目が人間の一生で赤ちゃんが産まれて育って年老いていくサイクル。2つ目が1日で、朝日が登って夕方になって日が沈むといったサイクル。そして3つ目が文明の興亡で、文明が起こって栄えて最後には衰退していくといったサイクル。その3つのサイクルはどの文化でも共感できるテーマだなと。
テーマが決まったら、その3つのテーマに沿ってゲームを作っていきました。例えば、人間の一生だとプレイヤーが子供になったことを想定して、その視点から世界を描いたらどうなんだろうと。『Sky』はまず孤島から始まるのですが、産まれたばかりの赤ちゃんから見たらどうなんだろう、赤ちゃんが育って少し大きくなったらどういう風に世界が見えるのだろう。そういった視点で考えた時に、子供時代に見る物は全部丸っこくて、柔らかくて、ぶつかっても怪我することのない優しい丸っこいシルエットが何となく浮かんできました。
文明の興亡でいったら、文明が起こって間もないころですよね。農耕時代の文明に丸っこいシルエットの建造物ってあるのだろうかって調べた所、ブータンだったり東南アジアの寺院だったりと色々な資料が出てきて、その辺からヒントを得て丸っこい柔らかい建造物を作ったりしました。
また段々成長していくにつれて、思春期の複雑な心理状態を形で表したら何になるだろうと考えて、柵のような森をイメージしてエリアを作ってそこに合う建造物をデザインする。といった流れで建造物はテーマに当てはめて作っていきます。
ーーかなりの時間を費やして今のデザインができているんですね!
田邊氏:捏ねて、捏ねて、捏ねくり回して作っていますね(笑)
ーー作品全体を見ていて、人を惹きつける不思議な雰囲気が特徴だなと感じるのですが、人を惹きつけるための技術みたいな物はあるのでしょうか?
田邊氏:2つほどあると思うのですが、1つ目は流れですね。物を見せる流れを重要視していて、僕たちは感情曲線って呼んでるんですけど、その時々に感じてほしい感情をグラフみたいに並べるんです。その通りの感情に乗ってもらえたら、最終地点に到達する時には、感情が揺り動かされている。感情のジェットコースターに乗ってもらえたら、印象に残る、感情に訴えかける体験ができるんじゃないかという持論があります。その感情曲線をまずデザインして、そこに沿って色だったり形だったり、ゲームプレイだったりをデザインしているので、最終的に何かを感じてもらえたのなら、感情曲線を体験していただけたのかな思います。
あと細い部分を言うと、ゲームデザインとアートって表裏一体なので、ゲームデザインを邪魔しないアートっていうのを心がけています。実際にゲームプレイした後で感じる面白いといった感情は、ゲームデザインを邪魔しないことが大前提だと思っているので。なのでビジュアルをデザインする時も、ゲームデザイナーが意図した方向性を邪魔しないように、誘導してあげられるようにビジュアルを配置している部分もありますね。試行錯誤の繰り返しだと思います(笑)
ーー『Sky』にもコンセプトアートがあると思うのですが、どのような話し合いを重ねて『Sky』の世界にマッチさせていくのでしょうか?
田邊氏:まずはゲームデザイナーとどういう感情体験を目指すかといった部分を話し合いで決めていきます。そこを軸としたコンセプトを練っていくって感じですね。まず感情体験を決めてから、そこに合うビジュアルを思いつくだけ出し合って、議論してバランスを取っていって、最終的に残ったアイディアがゲームに落とし込まれるって感じですね。
ーーデザインと音のどちらを先に作っているのでしょうか?
田邊氏:デザイン、ビジュアルが先に出来て、最後に音をつけてもらって完成って感じですね。オーディオ担当の水谷さんのお話なのですが、無音の状態のゲームを受け取って何回もプレイされるんですよ。プレイヤーがその世界に入った時に何が聞こえるだろうと、彼なりにシミュレーションして浮かんでくる音を再現するっていうプロセスで作ってらっしゃるそうです。
ーーデザインと音は同時並行で作っている物だと思っていたので驚きました!
田邊氏:音によって高まる完成度って凄いものがあって「もう一つだよね」「どうにかなんないかな」っていった物でも音が入ると急に完成度が増すんですよね。音の影響力は強いので、最初のコンセプトの段階でサウンドデザイナーから意見をもらうこともあります。
ーープロフェッショナル同士の合体で完成度の高い物を生み出しているんですね。
田邊氏:自分には作れないジャンルのスペシャリストが、凄い物を出してくれるとやっぱり刺激になりますよね。相乗効果じゃないですけど、僕も良い物を作ろうとして「じゃあこの音にあわせてビジュアルの声を上げていこう!」という風にできたら最高ですね。
イベント関係について
ーー『Sky』ではその季節によってイベントも開催されてるじゃないですか。そのイベントに対してはいつ頃から着手して、デザインを作っていくのかなと思いまして。例えば、数年前から着手し始めて一年後のゴールを目指すみたいな形なのでしょうか。
田邊氏:そうですね。スパンってすぐに決まることはほとんどないですね。マルチプラットフォームで出しているので、リリースしたいものの納期はプラットフォームごとにちょっとズレるんですよね。それを全部考慮した上で、逆算していってこの時期までに出来る物っていうのは限られてきちゃうんです。なのでなるべく先のプランも立てておきたいところなんですけれども、プレイヤーからの声って凄く大事にしてて。プレイヤーの間で「こういう声が盛り上がってんだけど」っていう話が出て「じゃあちょっとこっちやってみようよ」で急遽、舵を切ることもあります。
比較的少ない人数で作っていて、いつもプロダクションは時間との戦いなんですよね。みんな完璧主義というか、作りこみたいんだけど時間がない。その葛藤が常にあるんですけど、プロデューサーチームが制作側に時間を割いてあげたいから早め早めにプランを立ててくれるんです。それと並行してプレイヤーのみなさんの声とか、その時々の世界で色々なことが起こっているので「こういう状況ではこういう物を出さない方がいいんじゃないか」とか「こういう状況だからこそこっちを出した方がいいんじゃないか」みたいな話もしています。だから漠然としたプランは立っているんですけど、横の状況を見ながらその時々で、急遽こっちやってみようかっていうふうになることもあります。こんなプロジェクト管理って結構大変だと思うんですけど…うちのプロデューサーチームには頭が上がりません、凄いですね(笑)
ーーその急遽変更になったら、デザインとかもガラッと変えることも…?
田邊氏:プロダクションでこれをやろうって決めて、途中まで行ってから急遽変更ということは少ないですけど、次回はAをやろうとしてたけど、Bが出てきたからこっちを先にやろうっていうのはよくあります。
ーーあと季節のイベントをやってる時って、季節にあったデザインを作ると思うんですけど、作る時に気をつけたりしていることってありますか?
田邊氏:もちろん考えています。真夏にリリースされる物にモフモフで暖かいファッションを取り入れたりとかはしませんし、リリースする時期に何が起こってるだろうみたいなのはやっぱり想定しますね。世界情勢じゃないですけどそういう状態も見ながら、国と国が争っててちょっとみんなが不安だろうっていう時期に、アクションが激しめなシーズンはちょっと控えたり、こういう時期だからこそ気分を和らげるような優しい雰囲気の物を出そうとか、そういうことはよく相談します。
例えば、コロナの真っ只中にリリースしたシーズンは『楽園の季節』っていうんですけど、あの時期は僕たちのスタジオもシャットダウンして全員自宅からの作業になって誰も外出できない状況でした。こういう時期だからこそ、楽園を作ろうと、みんなにサマーバケーションを提供しようっていう意味を込めてシーズンをリリースしました。制作メンバーは世界各地にいるので、それぞれの地域で思うところはあるんでしょうけど、僕は両親が日本人なのでリリース時の日本の季節や雰囲気は意識しちゃいますね。世界中の人に楽しんでもらいたいというのはもちろんですけど、僕はやっぱり日本人なので日本人はどう思うかなっていうところは、ちょっと気にしてしまいますね(笑)
ーーお話を聞いていると、すごく日本を思ってくれているんだなって感じました!
田邊氏:大好きですよ。日本の外に住んでいると、美化して見えるんですよね(笑)
『Sky』に登場する生き物やテーマについて
ーー最新のPVにクジラみたいな、小さい丸っぽい生き物がいたじゃないですか。あれは何を想像しながらデザインしたんですか?
田邊氏:『Sky』はリリースされて4年くらい続いているIPなので、世界観っていうのは最初から出来上がっていて、まだまだ話が掘り下げていない部分もあるんですよね。なのでアニメーションだったり、他の媒体だったりとかで掘り下げていけたらいいなとは思ってるんですけど、その一環としてちょろっと出てくるキャラクターの一つなんですね。『自然の日々』というイベントで一回友情出演じゃないですけど、ちょろっと出したらすごいヒットしちゃって(笑)この子人気だからもう一回出そうか、ということで次のシーズンにも出演してもらうことになって。
PVはPV作成用のチームが作ってくれたんですけど、人気が高かったので出演させてさせてくれたのかなと思います。
ーー『Sky』全体を見ても海洋生物みたいな生き物が多いイメージを受けますが。
田邊氏:『Sky』に出てくる生き物って、基本的に海洋生物からインスピレーションを得てデザインしています。『Sky』は空を舞台にしているんですが、空を飛ぶって結構労力がいる作業なんですよね。実際に空を飛ぶ動物ってデザインすると、どうしても現実的になってしまって。『Sky』の世界はファンタジーなので、空を飛ぶっていうのは労力のいる作業ではなくて、夢を見てるような感じで飛んでもらいたいと。そこで優雅に動く物ってなんだろうと考えた時に、海洋生物が海で泳ぐ姿がうまく重なったので、デザインが決定しました。
ーーあと『Sky』では空以外のシチュエーションを用意されてると思うんですけど、その舞台ごとのデザインで工夫している点ってありますか?
田邊氏:プレイヤーの声を聞きながらどんどん進化を続けているんですけど、『Sky』の世界って僕たちは一種のテーマパークみたいなものだと考えています。色々な感情体験ができるテーマパークという風に見た場合、同じような感情体験ばっかりだとつまんないですよね。今度はこっち行ってみようとか、次はジェットコースターに乗ってみようとか、アイスクリーム食べようとか、色々な物があるからテーマパークって楽しいんで、『Sky』もなるべくそういう風にしていけたらなと考えています。ベースは感情体験なんですけど、感情体験って言っても様々なジャンルの体験があって、色々な感情を体験してもらえたらいいなと思って、異なるエリアだったりシーズンだったりを作っていますね。空を優雅に飛ぶっていうのはもちろん『Sky』の醍醐味ではあるんですけど、そればっかりのシーズンだとみんな「もういいよ」ってなっしまうと思うので、たまには怖いシーズンだったり、ちょっとシリアスなシーズンだったり、ちょっとふざけたシーズンだったりを織り交ぜながら様々な感情をカバーできたらいいなと思ってます。どんな感情を体験をしてもらうかで、それに合った場面っていうのは何だろうっていう風に作っていますね。
ーーお話を聞いていて『Sky』の世界に怖いシーンやシリアスなシーンとかはちょっと合わせにくいのかなって思ったんですけど、その世界を作る際に怖すぎるとか悲しすぎるみたいなことはなかったのでしょうか?
田邊氏:その辺りのさじ加減は難しいですけど、作ってる人がそれぞれ違うんですよね。シーズンを担当するゲームデザイナーは、その都度変わるんです。そのゲームデザイナーの色っていうのがあるんですよ。デザイナーがシリアス好みだったりすると、ちょっとそっちに寄ったり、明るいものが好きなデザイナーだと明るくなったりっていうのはあります。
怖いのを作るのが上手だっていうデザイナーだったら、すごく怖いものにしたいところなんですけど、β版を出してみてプレイヤーのみなさんの反応を見ながら「ちょっと怖すぎるよ」「これは遊べないよ」っていう声が多く聞こえたら調整をしますね。プレイヤーのみなさんの声を聞いて、ちょっと行き過ぎかなっていうところをアジャストしたりっていうことはよくあります。
でもゲームデザイナーはアーティストなので、どこまでやったらいいかのはせめぎ合いですね。ちょっとシリアスなシーズンを作る時とかは挑戦ですね。4年やってきてるので、これをやったら受けるっていうのはもうわかってるんですよ。でも感情体験っていうのは上がったり下がったりして初めて心が揺り動かされるので、いつも楽しい、欲しいものばっかりっていうのではなく、幅広い感情を混ぜながらやっていきたいです。しかし、独りよがりになったらプレイヤーから「面白くないよ」って言われてしまうので、その辺のバランスがやっぱり難しいです(笑)
ーーどういった場面でそういったアイティアを思い付いたりまとめたりするんですか?
田邊氏:状況は毎回違いますね。パッと閃いて、みんなでそのアイディアが一瞬で共有できて、ドーンっといけちゃうこともあれば、こういう感じの物にしたいんだけどどうだろう、この時期にこれを出すのはどうだろうってみんなで議論しながら、色んなアイディアを出し合いながら、ちょっとずつ作ってやり直して、捏ねて捏ねて捏ねくり回してっていう場合もあります。アイディアが出てから完成に至るまでのプロセスって見事に毎回違いますね。
開発エピソードについて
ーー今までで一番印象深いエピソードとか教えていただけますか?例えばアイディアに関してのエピソードとか。
田邊氏:僕が一番印象に残ってるのは、コロナの時の『楽園の季節』ですね。あの時はみんな同じ苦しみを味わっていたので、みんなが同じことをなんとなく肌でを感じていたと思います。辛い時期だからこそ、その反対の物を作ろうぜって言った時に、みんながよっしゃ!って進み始めた瞬間は凄く印象に残ってます。やっぱりコロナの時って、明るい物をみなさん求めてたんだって。うちのクリエイティブディレクターって凄く厳しいんですけど、そのシーズンの時は好きなようにやろうよって言ってくれたので、凄い量のアイディアが出てきました。最終的にアイティアが出すぎてまとめるのにちょっと苦労したんですけど(笑)でも、最初のスタートダッシュは凄かったです。一致団結したんですね。
逆に捏ねて捏ねて捏ねくり回してっていうシーズンは辛いんですけど、そのシーズンを経ると最終的に形にならなかった物っていうのはストックというか、引き出しとして残るんですよね。なのでこのシーズンにやろうとして出来なかったけど、これいいアイデアだよねっていうのは結構蓄積されています。新しいシーズンだったり、イベントだったりが必要になった時に、あれがあるじゃないか!みたいな感じで引き出してくることもよくあります。プレイヤー達の声もいつも聞いてるので、求められているものも引き出しに残っていきます。イベントなどを企画するときに色々な引き出しからアイディア持ってきて合体させるっていうこともありますね。様々な理由から断念せざるを得なかったアイディアが、巡り巡って再登場した時の喜びは大きいですね。
ーー作る過程で出来たアイディアは無駄ではないんですね!
田邊氏:どうでしょうね(笑)無駄だらけな気はしているんですけど、無駄のおかげで引き出しがいっぱいあるのは間違い無いです。『Sky』をリリースするのに7年かかっていて、7年間捏ねくり回しているので、リリースするまでに貯めたアイデアっていうのももちろんあって。そのストックもちょっとずつ出していきたいですね。
ーーお話を聞いていて、アーティストさん達をまとめるのって凄いエネルギーがいると思うんですけど、そのエネルギーっていったいどこから来ているのでしょうか?
田邊氏:やっぱりプレイヤーの声って凄い活力になりますね。特に今回みたいに実際にお会いして感じる、みなさんの愛情ですね。『Sky』をリリースするのに7年もかかって凄い大変だったんですよ。リリースした時も凄く不安で、バトルも競争もないゲームを楽しんでくれるんだろうかってすごい不安だったんですけど、リリースした後にプレイヤーからたくさんのポジティブなメッセージを頂きました。67歳のおばあちゃんが『Sky』を遊んで「凄く勇気づけられました」と書かれた手紙が届いた時には、一瞬で7年の疲れが吹っ飛びました(笑)やっぱり、プレイヤーのみなさんが遊んでくださって「良かったよ」って言ってくれると、作って良かったって思えるんですよね。だから活力ってそこだなと思います。僕たちがプレイヤーの皆さんの声を必死に聞くのも、それが僕たちにとって活力でもあるからなんですよ。
今後の『Sky』について
ーー今後『Sky』の世界に何を追加していきたいとかを、差し支えない範囲で教えていただけると嬉しいなと思うんですけど…。
田邊氏:やりたいことはいっぱいあるんですよ(笑)ゲームを作るって制約だらけなんですよね。例えば、僕はコンセプトチームのリードなのでコンセプトを作るんですけど、コンセプト通りに物が出来るなんてことはまずないですね。サーバーの制限だったり、時間とプロダクションの制限だったり、制約だらけの中で何とかしてそれなりの体験ができる物を出すっていうのがゲームなので。企画からリリースまでの間に切ってばっかりなんですよね。だからやりたいことっていうのはもう山ほどあるんですよ。
実は昨日も Q&A の時間がありまして「制限なしで何でもやっていいって言われたら何がしたいですか?」って言われた時にパっと出ちゃったのが、バクの修正じゃないですけど、サーバーを改善できたらいいなって言っちゃったんですよね。もうちょっと夢のある回答ができたら良かったんですけど(笑)でも、それだけ僕らって制限の中で何とか作ってきてるので、何でもやっていいって言われたら、まずやりたいけど出来ていない部分を直していきたいっていうのは大きいです。プレイヤーのみなさんが感じてらっしゃるであろうストレスっていうのは、僕らももちろん感じてて凄く直したいし、どうにかしたいっていうのは沢山あるんですよ。だから何でもしていいって言われたら、まず直すところを直してから、色んな新しいものを出していきたいですね。
ーー現状のゲームシステムに気になるところが結構あるんですね。
田邊氏:そうですね、気になる所ばっかりなんですよ。例えば、一緒に友達と入ってても途中ではじかれちゃったりとか、繋がりたい時に繋がれないとか、8人までしか一緒に遊べないとか。そういうサーバー関係の不具合だったり、独自のエンジンで作ってるので制限が沢山あります。どのシーンでもみなさん「これ綺麗です」「素晴らしい」って言ってくださるんですけど、そのスクリーンショットを見てどうだ!すげえだろう!とはチームの誰も言えないんですよ。僕ら制約の中でなんとかそれを出したので、直せるものならここを直したいし、テクスチャ伸びちゃってるし、ここにも出来ればもっとちゃんとしたモデルを置きたいとか、色々ありますね。直したいところばっかりで、なかなか言えないですけど沢山あるんですね(笑)あそこも、ここも、色もちょっとイメージと違う!みたいな感じです。
ーースマホゲームの中でトップクラスにグラフィックが綺麗だなって個人的に思っていたんですけど、それでも開発の皆さんはまだまだって感じなんですね。
田邊氏:そういうありがたいご意見をいただいているのは、やっぱり『Sky』に関して言うと独自エンジンで作っていて、独自エンジンだからこそできる表現があるからですね。でも、そこにしかない難しさっていうのもあるんですよね。特性をいかに理解して、それを利用したビジュアルを作れるかっていうところが重要だと思っています。コンセプトアーティストは、頭で思い描いた物をペイントしてしまえばいいんですけど、思い通りにペイントした物をゲームで出せるかっていったらそうではないんです。なので、ゲームのエンジンができる最高の物、そのエンジンの特性を知った上でこれだったらこれが素晴らしい、こういう事が得意なんだっていうのを知ってから、それを利用して作ると良い物になるのだと僕は思ってます。
背景綺麗ですねって言われたら、うちのグラフィックエンジンがすごいんですって言いますね(笑)
田邊 裕一朗氏から日本のみなさんに向けて
ーー貴重なお話ありがとうございます!最後に日本の『Sky』ファンのみなさんに一言いただいてもよろしいでしょうか。
田邊氏:ありがとうございます!の一言に尽きますね。おかげさまで4周年を迎えまして『Sky』は4歳になることができました。『Sky』っていうのは、やっぱりプレイヤーのみなさんが命を吹き込んでくれてこそある世界なんですよね。2日間のイベントで実際にプレイヤーのみなさんとお話させていただきました。『Sky』を初めて訪れてくださる方が「なんか平和だよね」「なんか温かいよね」って言ってくださるのは、僕らが用意した舞台の上で演じてくださるプレイヤーのみなさんが温かいからなんです。だから『Sky』凄いねって言われたら、プレイヤーのみなさんも胸を張ってください。本当にプレイヤーのみなさんには、ありがとうございますとしか言えないですね。
最後になりますが、これからも一緒に『Sky』を成長させて素晴らしい世界にしていきましょう!ありがとうございました!
See you in Sky!
ーー温かいお言葉ありがとうございました!
『Sky 星を紡ぐ子どもたち』の概要
(編集・執筆/ゲーム山本)