数々のクラシックゲームの復刻を手がける「株式会社シティコネクション」。今回は、代表取締役である吉川延宏氏にインタビューすることができた。本記事では、開発裏話や今後の展望を中心にみなさんにお届けしていくので、ぜひチェックしてみてほしい。
吉川延宏氏の自己紹介
吉川延宏氏(以下、吉川氏):株式会社シティコネクションを2005年に創業して、創業時からの代表で社長の吉川延宏と言います。私は元々TSUTAYAを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブという会社で働きながら、独立する形で下請け業務の会社としてシティコネクションを設立しています。最初の約7〜8年ぐらいは、全くゲームとは関係ない仕事をやっていました。
社名の由来について
ーーシティコネクションの社名の由来について教えていただけますか?
吉川氏:ジャレコの『シティコネクション』というゲームが好きで社名にしたんです。1985年に発売されたゲームで、小さい頃にこのゲームがすごく好きでよくプレイしていたんです。新しく会社を立ち上げるのに社名が必要になり、何にしようかと考えた結果、そのことを思い出して好きなゲームの名前を社名にしたという経緯です。色々なファミコンタイトルを並べて「これが好きだったな」みたいな(笑)。
ーー愛がありますね。創業初期のエピソードをもう少し詳しく教えていただけますか。
吉川氏:創業当時はTSUTAYAの仕事を主にやっていました。次第にその延長線上で、ゲームサウンドトラックを扱うようになります。というのも、ゲームのサウンドトラックをラインナップとして充実させたいという想いがあり、せっかくなら自分で好きなゲームのサウンドトラックを作ろう、と。社名がシティコネクションだから、レーベル名はゲームのヒロインの名前をとって「クラリスディスク」、第一弾のゲームサウンドトラックもジャレコでした。自分で決めていったのですが、全部社名に引きずられてますね(笑)。そうしてサウンドトラック制作を中心に事業展開していた時代があったので、当時からのファンの方で、うちのことを今でも「クラリスさん」と呼ぶ方もいます。Twitter(現X)のIDもずっとクラリスディスクですし。
ジャレコIPの保有について
ーーシティコネクションさんはジャレコIPを保有していますが、なぜ引き継ぐことになったのでしょうか?
吉川氏:ジャレコという会社と出会って引き継ぐことになった経緯でいうと、やっぱり社名がシティコネクションだからです。これも社名が道を作った形になるのかもしれません。ゲームの名前を会社にして、その後から元ネタになったゲーム会社のライセンスを引き継いだという事例になります。他人に話すと「多分それ世界で初だよ」みたいに言われたことはあります。
ーー引き継ぐことになったエピソードについて教えてもらえますか。
吉川氏:ジャレコのサウンドトラック制作をきっかけに取引先としてのお付き合いが始まったのですが、紆余曲折ありつつもジャレコが倒産しそうなタイミングまで関係性が続いていたため、引き継ぐというお話になっていきました。
ーー当時はどのような気持ちで話を聞いていたんでしょうか?
吉川氏:実はもともと熱意をもって、こちらから話を持ち掛けていた時期があったんです。ただ、その時は様々な事情で諦めざるを得なくなって、自分の熱はそこで一度消えていたんですよね。それから2年くらい経って、今度は逆に向こうから話が出てきた形だったため、とても悩みました。ただ、事情を深く理解した後は、恐らく世界で自分しか引き継ぐことができないということが分かったので、使命というか、運命として受け入れたって感じですね。ここで自分が断っていたら、ジャレコのIPが宙に浮いてしまって今後誰もさわれない状態になっていたと思います。
ーーお話しいただいたエピソードはごく一部だと思うのですが、引き継ぐのはとても大変だったんですね…。
吉川氏:自分はゲームが好きなゲーマーではあるんですけど、その前に起業家であり、今までたくさんのビジネスを手掛けてきたので。そういった観点で見ている部分も強いですね。
ーージャレコファンからすると神様だと思いますよ!
吉川氏:クラシックゲームファンは間違いなく世界中にたくさんいて、そのコミュニティや市場の中で、やっと一定の実績を出せてきたのかなと思います(笑)。
開発裏話について
ーークラシックゲームの移植やリメイクを開発する工程を教えていただけますか。
吉川氏:シティコネクションには現在50人ぐらいの従業員がいるんですけど、開発チームだけでなく、経理や総務も含めてみんなめちゃくちゃゲームが好きなんです。小さい頃からゲームをやっていた人が多いんですよ。こういった経験に基づく知識や熱量がまずあって、企画が作られていくことが多いです。元々数名の会社でしたし、今も基本的にはメインの開発部署はワンフロアなので、スタッフ同士の熱が伝播しやすい環境というのもあるかもしれません。業界の先輩やメディアの方からは「社風がファミコン時代の会社みたいだ」と言われることもあります。クラシックゲームに携わる時の絶対的な条件として、ディレクターやプランナーがそのゲームにものすごく詳しくないといけないんですよ。この条件がバチっとハマったタイトルを出している感じですね。
ーー練りに練ってという感じなんですかね?
吉川氏:事業計画としては、練るというよりは消去法かもしれません。たとえば、「このタイトルを出したら売れるよね」と分かっていても、そのタイトルを社内の誰も触ったことがないし、色々なハードで過去に何回も出たものとなると、「じゃあうちの出番じゃない、別の会社さんに任せた方がいいんじゃない?」って話になったりしますね。
逆に発売当時に全然売れてなかったタイトルや埋もれてしまったタイトルでも、社内にものすごく好きな人がいて、マーケティングをして何百人、何千人ぐらいの小規模でも、欲しい人の数が大体分かったら商品化します。
ーーマイナーなゲームにもスポットを当てるんですね!すごいチャレンジングなことだなと思います。
吉川氏:あとはブランディングも同時にやっていて、系統が違うものを無闇に出しも節操がないというか。儲けだけを考えているわけではないので、お客さんが買いやすいようなブランディングをしています。
たとえば、うちだとセガサターンで出たゲームで括ったりとか、ジャンルでも2Dシューティングゲームという形で括ったりとか、ジャレコやサンソフトさんみたいなメーカーで括ったりとか。あとは、中古価格がすごく高騰しているタイトルや復刻の機会がこれまでなかったタイトルに希少価値を見出して選定することもあります。遊びたい人にとって、現行機ではない当時モノのハードと高額なソフトを揃えるのは大変ですからね。そうやって、カテゴライズ、ブランディング、マーケティングしつつ、ファンの声が大きくて、社内に詳しい人がいる、というタイトルを選んでいます。最近では『Gimmick! Special Edition』や『BATSUGUN サターントリビュート Boosted』がまさにそうですね。
これって実はTSUTAYA(CCC)のやり方なんですよ。私はずっとこういった考えで売り場や企画を作っていた人間なので。TSUTAYAから始まってゲームサウンドトラック制作、そしてゲーム開発へ、という流れです。
ーー今まで培った手法をゲーム事業にも活かしているんですね。
吉川氏:ショップやストアの考え方ですよね。ゲームメーカーというと基本的には自社のタイトルを作って売っていくのが基本だと思うんですよ。弊社の場合はジャレコや彩京など自社で自由に扱えるIPが大体50%で、他社様からお借りして展開するタイトルが50%という形で、大体半々でやっています。
ーーどちらかに寄らず50%ずつというのは興味深いですね。今後もその形を続けていくのでしょうか。
吉川氏:実は、ちょうど今年から次のステップということで、クラシックゲームのIPではあるんですけど、移植ではなく新作としての展開を強化していく予定です。先ほど話した自社IPである50%の中から、さらにその半分はそうしていくと決めています。今年からは、完全新作タイトルもたくさん出ますね。
ーーたとえばどのようなタイトルを出されるんですか。
吉川氏:これはもう発売済みのタイトルですが、『じゃじゃ丸の妖怪大決戦』というゲームが良い例かと思います。『忍者じゃじゃ丸くん』という、ジャレコがファミコンでリリースして当時100万本くらい売れたタイトルの完全新作を出しました。世界観やキャラクターは引き継いでいますが、ゲーム性は完全に新規で企画して作りました。
ほかにも、『FZ: Formation Z』というタイトルを現在開発中なのですが、こちらは40年前に出た『フォーメーションZ』というゲームの新作になります。「クラシックゲームの完全新作って何なんだ?」と思われているでしょう。これがトレーラーです。
ーー基本的な部分はそのまま引き継いでいるのでしょうか?
吉川氏:守るべき部分と、変えないと楽しくない部分というのがあります。このゲームの場合は見た目だけでなく、ゲーム性も大きく変えていく予定です。単に絵を変えるくらいなら、新作ではなく移植でいいわけですから。原作をプレイした時とは違う体験になってないと、手間暇かけて綺麗にする意味がないと思うので。
ーーレトロゲームファンからすると、もう出ないと思っていたゲームの新作が出るとなると、すごく嬉しいような気がしますね。
吉川氏:実はこういった新作は、ターゲット層としてクラシックゲームファンは第一には置いてないんです。もちろん、原作のファンにもサプライズを提供して楽しんでいただきたいという想いはあるんですけど。今も新作ゲームをプレイしている人たちや、インディゲームファン、原作を知らない20代、10代の人たち、そして海外のユーザーをターゲットにした作りにしてますね。
ーーやっぱり海外の方も結構プレイされるんですね。
吉川氏:そうですね。3〜4割ぐらいは海外のお客さんです。
ーー現在プレイするのが難しいタイトルも多く存在する中で、今後復活させたいタイトルはありますか?
吉川氏:具体的に挙げるのは難しいですが、希少性があって、ゲームの内容はとても面白いんだけど、あまり知られていないようなタイトルですね。『ファミリーコンピュータ Nintendo Switch Online』などにも入らないようなタイトルで、当時のメーカーがもう残っていなかったり、権利元も手を付けにくいようなIPこそ、シティコネクションの出番ではないかと思っています。
開発エピソードについて
ーー現代のハードへ移植する際は、どういった手順で開発を進めているのでしょうか。
吉川氏:タイトルによって全然作り方が違うんですけど、大きく分けるとフルスクラッチと呼ばれる手法と、ゲームエンジンを利用する開発、エミュレーションという手法の3種類があります。恐らく一般的にゲーム開発と聞いてイメージされるのはゲームエンジン利用かフルスクラッチですね。要はゲーム内のリソースを自分たちで用意する開発方法です。
前2者であればある程度何でもできるので、時間と予算に合わせて企画・開発します。ただし、原作のソースコードがない場合は、元のゲームをひたすら研究して仕様を再現するいわゆる「目コピ」と呼ばれる作り方になります。先日発売した『サイキック5 エターナル』というジャレコのアーケードゲームを基にしたリメイクでは、原作のソースコードがなかったため、開発担当のCRT GAMESさんが元のアーケード版を研究しまくって、それをできるだけ再現するように作っています。
対して、エミュレーションはオリジナルのソフトウェアをそのまま別のハード上で疑似的に動かすという方法です。とは言え、エミュレーションエンジンの開発には時間もかかりますし、エミュレーションができたからといってすぐにゲームができあがるわけではありません。現行機で遊ぶための調整は必須ですし、ユーザビリティを高めたり、追加要素を実装する場合は、企画と研究が必要です。フルスクラッチとは違って、基本的に手を入れられる場所が限られているので、プログラマと話して開発期間などの制約と相談して実現できるものとそうでないものを探りながら作っています。
ーー一から作ってるものとエミュレーションで作ってるタイトルを教えていただけますか。
吉川氏:弊社では「サターントリビュート」というブランドを展開していますが、このシリーズではセガさんの家庭用ゲーム機であるセガサターン向けに発売されていたタイトルを、自社で開発したエンジンで動かして移植しています。ただ、元のゲームをそのまま出すのではなく、サポート機能や遊びを拡張する要素を追加しています。今年出した『BATSUGUN サターントリビュートBoosted』では、新機能としてメインのゲーム画面外に情報を追加するUIや、新たにアレンジしたBGMを実装しました。
ほかには、「メモリークリップ」というブランド展開もしていて、最近ではサンソフトさんの『ギミック!』というファミコンのタイトルを移植してリリースしました。こちらも「サターントリビュート」のエンジンとはまた別の、独自のエンジンでファミコンソフトをエミュレーションしています。
ーー開発で特に苦労したエピソードとか教えていただけますか。
吉川氏:ゼロから作る場合は時間も予算もかかりますし、たくさんの人が関わるのでめちゃめちゃ大変です。一方でエミュレーションの場合は解析してみないと分からないので、行き当たりばったりの部分がちょっとありますね。解析した結果、大規模な修正が必要な事がわかったり、手を加えられる部分がなく企画として成立しないと判断することもありました。
ーーやはりどちらも苦労するんですね…。
吉川氏:あと、エミュレーションは人数で解決できるものでもないので、専門家一人がずっと付きっきりでやる感じです。分担作業ができない部分が多いので、担当者に発表前からずっとやってもらって、発表した後もずっとその人がやり続ける形になります。発表した後にやっていたら間に合わないので、発表の時点で、ある意味完成していると思ってもらっていいかもしれないです。要はゴールが見えるか見えないかの違いですかね。
ーー発売日がゴールみたいな感じですかね。
吉川氏:発売日ではなく、技術的な部分をクリアして、企画が成立し、ゲームの完成形が見えているか、見えていないか、ですかね。完成されたオリジナルゲームがあるので、エミュレーションであればゴールが見えているじゃないかと思われるかもしれませんが、決してそうではないんですよ。オリジナルと違う挙動になる部分があったり、サウンドにノイズが混じるとか、処理が遅れるとか、元のゲーム通りにならない箇所が出てくるんです。その辺が辛いですね。一つ一つ解析して、修正して、確認する工程を踏んでいます。膨大な時間と根気が必要ですね。ブレイクスルーが起きて一気に解決することもあるんですが、1年かけても終わらないものもあれば、3日くらいで終わるものもあります。
ーー作業にかかる時間が全然違うんですね。
吉川氏:経験で事前に分かることも多いです。ただし、エミュレーションしているはずなのに原作では絶対に出ないようなバグが出ることもあります。以前『暴れん坊天狗& ZOMBIE NATION』というファミコンタイトルの復刻作を開発している時に、ボス面の敵が弾を撃ってこなくなるバグが出たことがありました。まったく想定外の、物理的にありえないだろうという現象が結構あったりします。
エミュレーションは昔のゲームをソフトウェア化して移植しているので、ゲーム本編の内容自体は基本的にいじってないんですよ。当時のまま動くはずが、特定のシーンの特定のキャラクターの動きが変わってしまったりすると、もう冷や汗です(笑)。そのバグが出たということは、エミュレーションそのものがうまくいっていない可能性があるので、ゲーム全体をデバックし直すレベルの作業が発生します。
ーーほかにも、修正が大変だったバグなどはありましたか?
吉川氏:『Gimmick! Special Edition』の開発では、音が正常に再生されないという現象にずっと悩まされていましたね。ファミコン版では拡張音源を積んでいるタイトルなんですけど、エミュレーションをすると音の再生速度が変わったり、音が途中で途切れてしまうバグが出ていたんです。そのバグが直らないと世には出せませんからね。
お蔵入りした企画もたくさんあります。復刻させるのって意外と大変なんです。
クラシックゲームへの思い入れについて
ーー新しいハードで新しいタイトルが次々発売される現代において、クラシックゲームを復刻させることについてどんな風に考えていますか?
吉川氏:高性能なハードで遊ぶリッチなグラフィックのゲームとは、作り方の面でも遊び方の面でも違う魅力があると思っています。うちの会社は社名がクラシックゲームの『シティコネクション』に由来するということで、うちにしかできないことをやるべきだと考えています。
たとえばソーシャルゲームの場合、広告・宣伝やマーケティングが非常に重視されていて、その段階でほぼ結果が見えてくるじゃないですか。そこをある程度スキップして事業計画を立てられるのは強みですね。クラシックゲームIPのファン、復活を願っている声をちゃんと拾い上げて、そういった方々に届けることで、ビジネスとしても成立する。なので、企画段階で大体数字を計算して、結果が予測に対してズレることはあまりないんですよ。「一発当たったら」みたいなギャンブル的考えは全く持っていません。なので、確実性のある指標になるユーザーの声は非常に大事ですし、それに答える形でユーザーが望むものを安定的に出していくことがシティコネクションの使命だと考えています。
ーーリメイクしたタイトルの中で特に思い入れのあるタイトルってなんでしょうか。
吉川氏:一番思い入れがあるのは、やっぱり『じゃじゃ丸の妖怪大決戦』ですね。理由は自社IPで自社開発した最初の完全新作だったからです。キャラクターや世界観、忍者や妖怪といったモチーフを活かしつつも、遊びの要素を完全に新しくしたものをリリースして、それなりに結果も出たというところではとても思い入れがありますね。
今後の展望について
ーー現在取り組んでいることや、今後の展望、目標を教えていただけますか。
吉川氏:先ほども話したように、IPを使った新作を増やしていきたいですね。あとはゲームを軸にしつつも、グッズやイベントにも力を入れていきたいなと思ってます。物作りが好きなスタッフが多いので。
ライセンシングジャパンに出展した理由も、IPを自社だけじゃなく、他社様にも使ってもらいたいっていう思いが強まったからです。なので、今回のインタビューを偶然見てもらった他の会社さんで、ジャレコのIPが使いたいなと思ってもらえたらとても嬉しいですね。
クラシックゲームファンに向けてのメッセージ
ーー最後にクラシックゲームファンの方に向けて一言いただけると!
吉川氏:みなさんが「こういうものを出してほしい」という声は届いていますし、ちゃんとチェックしているので、今後もシティコネクションに注目していただけるとうれしいです。期待に答えるべく努めますので、応援よろしくお願いします。あと、常にサプライズも心がけているので「うわ!なんだそれは!?」みたいなタイトルも必ず定期的に仕込んでいこうと思っています。サプライズがないと面白くないので(笑)。まずは、2024年のリリース情報を楽しみにお待ちいただければと思います。
ーー本日は貴重なお時間、ありがとうございました!
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(編集・執筆/ゲーム山本)