2015年にドイツ年間ゲーム大賞にノミネートされて大きく話題になった街づくりボードゲームの傑作『街コロ』が、なんと開発元であるグランディング自身の手でデジタルボードゲーム化されるという。
今回はリリースに向けて開発が進められている本作について、グランディングさまからアナログ版・デジタル版のそれぞれの開発の方をお招きしてインタビューさせていただいたので、その模様をお届けする。
「街コロ」って?:建てて、稼いで、街を発展させるお手軽ボードゲーム
「街コロ」は自分の街に様々な施設を建設してお金(コイン)を稼ぎ、他のプレイヤーよりも早く4つのランドマーク施設を完成させることを目指す、というボードゲーム。世界で最も有名なボードゲーム賞であるドイツ年間ゲーム大賞(Spiel des Jahres)に、日本のゲームとして初めてノミネートされた作品だ。
手番ごとにサイコロを振り、出た目の数が書かれた建物カードを持っていればコインが貰え、そのコインで新たな建物を購入して……と非常に簡単なルールで遊びやすく、建物が増えてどんどん街が発展していく感覚が面白い。
▲『みんなと街コロ』オフィシャルトレーラーより
「街を発展させる」というデジタルゲームで言うとシムシティっぽいテーマなのだが、シンプルでわかりやすいシステムで、またすべてのカードがオープンになっているためプレイヤー同士でお互いのアクションに対するアドバイスを送りやすく、初心者や小さな子どもと遊ぶ最初の一本としてもおすすめの一作だ。
さて、そんな『街コロ』が、なんとデジタル版になって再登場する。というわけで、ボードゲーム版のオリジナル『街コロ』と今回のデジタル版『みんなと街コロ』の制作に携わった方々をそれぞれお招きして、インタビューを実施してきた。
『みんなと街コロ』オフィシャルトレーラー
今回インタビューを受けていただいたお二人
▲菅沼さん:ボードゲーム版『街コロ』のディレクター(左) 伊藤さん:デジタル版『みんなと街コロ』のディレクター(右)
『街コロ』は最初デジタルゲームになるはずだった?
--今日はよろしくお願いいたします。それでは早速ですが、アナログ(ボードゲーム)版、デジタル版の街コロについて、それぞれの開発経緯を最初にお聞きできますでしょうか?
菅沼さん
では最初にアナログ版について私からご説明しますね。実はこれ、元々はアナログのボードゲームとしてではなく、デジタルゲームを制作するつもりで企画を立ち上げたゲームなんですよ。
--実は事前のお打ち合わせでも少しお聞きしたのですが、ものすごく意外でした。実際に作ってみたものを社長さんに上げてみたら、これはデジタルじゃなくてアナログで出そうってお話になったんですよね。
菅沼さん
一通り完成まで持っていって、いろんなところで試遊してもらったりとかもしていたんですが、これが2011年頃のことで、当時はまだ「ボードゲーム」自体が現在に比べてかなりマニアックというか、一般的にあまり認知されていない時代でした。
とはいえ、ゲームとしては形になっていて、自分たちとしても「これは面白い」っていう自信もあったので、なんとかこれを発表したいと思っていたときにゲームマーケットの存在を知り、そこからはもういろんな方に相談しまして、どこで作るとか、どれぐらい作るとか、いくらで売るかとか、ずっと手探りで検討しながら出していきました。
--2011年付近だと、日本でボードゲームが流行りだす少し前というくらいのタイミングという気がします。都内のボードゲームカフェ数の推移なんか見ると、ちょうど2015年頃から数が増えているという統計もあるようです。
菅沼さん
販売からヒットまではかなりブランクがありました。デジタルゲームを作っている会社がボードゲームを出した!っていうことでちょっと話題になったり、コンポーネント(※1)に関してポジティブな評価をもらったりはしていましたが、一般の人が手に取ってくれるような機会はほとんどなかったんじゃないかと思います。
※1:ボードゲームのコマやボードなどのこと
--それが大きく話題になったのが2015年のドイツ年間ゲーム大賞ですね。
菅沼さん
そうです。国産タイトルがゲーム大賞にノミネートされたっていうことで話題になりました。ちょうどその時期には人狼ブームなんかも来ていて、ボードゲーム自体に注目が集まるような流れになっていたというのもあったと思います。
--もともとはボードゲームになるはずではなかったものが、思いもかけていなかった形で世に出て大きなヒットになるという、すごく面白い展開ですね。デジタル版の開発が始まったのも、そのような流れを引き継いでいるのでしょうか?
伊藤さん:
デジタル版に関しても作りたいっていう思いをずっと温めていてはいたのですが、契機としてはコロナ禍で人が集まりにくい環境ができた、ということがありました。やっぱりアナログのボードゲームだと、友達を家に呼んで遊ぶっていうことがなかなかやりづらくなってしまったんですよね。
ちょうどコロナ禍の始まり頃から、他社さんでもオンラインでボードゲームが遊べるっていうものがちょこちょこリリースされたりとかもしてたので、そういった経緯もあって、「オンラインでみんなと遊べる」っていうところを目指してデジタル版の開発がスタートしました。
--このインタビューの少し前には、『カタン』(※2)の電子版が出るということがニュースになって話題になったりもしましたね。「ボードゲームのデジタル版」っていうもののニーズは、増えてきているという印象でしょうか?
※2:『カタンの開拓者たち』。世界で最も有名なボードゲームの一つ。
伊藤さん
そうですね。開発スタートに際しては他社さんから出ているボードゲーム作品も参考にしていましたが、やっぱり一昔前に比べてデジタル版で、特にオンラインで遊べるっていうものは増えてきていると思います。今回、街コロをこうやって出そうということを決めたのも、そうしたことを踏まえています。
デジタルの利便性を追いつつ、「モノ」としての良さも残したい
--デジタルボードゲームっていうのは、すでにモノとして形になっているボードゲームを、わざわざデジタル化させるっていうことですよね。そうすることの意味というか、デジタル版ならではの強みや利点といったものはあるのでしょうか?
伊藤さん
一つには、ルール説明であったり、ゲーム進行の管理などをコンピューターに任せられるということですね。街コロで言えばコインの計算であったり、カード効果の発動条件などです。だから遊ぶ人みんながゲームのルールをしっかり把握している必要がなくて、初めての人同士とか、小さい子供と一緒に遊んだりとかもしやすくなります。あとは、もちろんオンラインを通じて離れた人とも一緒に遊べるっていうところも、デジタル版の大きな利点だと思います。
オンラインに関しては、友達同士はもちろん、お互いに知らない人とも一緒に遊べるようになっています。実は『みんなと街コロ』のsteam版は8ヶ国語の対応を予定していて、海外のプレイヤーさんとも一緒に遊べるんですよ。先程もお話がありましたが、賞にノミネートされたこともあって海外のユーザーさんからも注目してもらいましたので、そうした方たちとオンラインで繋がれるっていうところも、デジタル版ならではの利点になるかなと思っています。
--なるほど。確かにデジタル版だとそうしたメリットは大きいですね。でも逆にデジタルだと失われるものもありますよね。私なんかもそうなんですが、ボードゲーム好きって、コマが動く様子とか、実物としてのコンポーネントを含めてゲームの雰囲気を楽しんでいる方も大勢いるのではないかと思います。そのあたりで調整の難しかったことなどあるでしょうか?
伊藤さん
例えばコインの増減周りなんかはそうですね。アナログのボードゲームなら、コインのやり取りが発生すれば実際のモノが手元で動くので、自分のアクションに対する成果っていうのがダイレクトに感じられるんですが、デジタルだとすべてが画面上の数値で終わってしまうので、そういうボードゲームが持っている、物理的な肌感みたいなものをどうやって再現するのか、っていうのはかなり難しかったです。逆に言えばすごくこだわって作ったところでもありますね。
--そういう感覚すごくわかります。コインの増えた減ったみたいなところで発生する嬉しさとかガッカリ感って、実物のボードゲームを触っているときならではのものがありますよね。
伊藤さん
これでどうだっていう試作品を作って、社長に持っていっては「これではまだダメだ!」っていうやり取りを何回もやってまして、何度も改良を繰り返しているので、もう最初とはだいぶ違ったゲームになってます。その分遊んでいて楽しくなっているなというのは制作メンバーも実感しているので、そこは本当にこだわってよかったなと思っています。
--元のボードゲームとしての雰囲気を残しつつデジタル版としての便利さをちゃんと発揮できるようにするためには、やっぱりUI周りの調整は難しかったのですね。
伊藤さん
ボードゲームでは情報をどうやり取りするかっていうところが一番重要だと思っていて、画面の中に必要な情報がしっかり収まっているように、というところは重視しています。街コロの面白さの一つは、コミュニケーションが生まれやすいことだと思っています。これはプレイヤー全員がお互いのカードをすべて見られるので、アドバイスがしやすいからなんですね。実はこれがデジタル版だと再現が難しくて、制作を進めるに当たって一番大変だったところでもあります。
例えばTCGみたいなゲームであれば、相手の手札なんかは自分の画面の中に入っていなくても問題ないわけですが、街コロの場合は他の人が持っているカードも、全部一つの画面の中に表示しないといけないので、どうしても情報量が多くなってしまうんですよね。
画面の中に情報を詰め込んでしまうと、今度はカメラが問題になります。全部の情報が一つの画面に入っているとカメラが切り替わらなくなってしまうので、静止画の画面で淡々とゲームが進んでいくような形になってしまい、これはデジタルゲームとしてはやっぱり良くない。UIであったり画面の構成みたいなところは、そうしたことをいろいろ考えながら作っていました。
『グランディング』って、デジタルorアナログどっちの会社……?
--グランディングさんではデジタルゲームもアナログゲームも両方作られていますよね。両方のジャンルで制作を行っているメーカーさんってあまりないような気がするのですが、どうしてこのようなことをされているのでしょうか?
菅沼さん
弊社は基本的には「アナログゲームのメーカー」というわけではないんですよね。元々はデジタルゲームの制作会社として始まっていて、とは言え「デジタルゲームが作りたい」というわけでもなくて、とにかく面白いものを作りたい、エンターテイメントを世に出したいっていうスタンスなんですよ。だからアナログでもスマホでも据え置きでもVRでも、とにかくなんでもよくて、自分たちが面白いと感じられるものを作りたい、っていう人間が集まっている会社なんですよね。
--メンバー全員が根っからの開発者っていう感じですね!「これを作れば面白くなるぞ」っていうアイディアとか熱意みたいなものがベースに、あとはそれを最適化できる場所をとにかくどこでもいいので探してみようっていう。
菅沼さん
社員の意欲というか、みんなのやりたいことをすごく大事にしてくれる会社だと思っています。アナログゲームってぶっちゃけそんなに利益が出ないんですよ。なので多分、普通のデジタルゲームの開発会社だったら、やるんだったら自分たちで勝手にやればとか、もしくは競合するから会社としては認めない、って形がほとんどだと思います。そこのところ、うちの会社はすごく社長が寛大なんですよね。
--デジタルゲーム・アナログゲームのそれぞれの開発から、お互いに何か影響があったりはするのでしょうか?
菅沼さん
最近はまた少し変わってきているのかもしれませんが、アナログゲームっていうのは、割と実験的なことができるものだと僕は考えています。だからそういう意味では、アナログゲームでのアイデアがデジタルゲームの制作にも展開できるのかなとは思ったりしますね。
--アナログゲームで取り入れたメカニクスをデジタルでも参考にするみたいな。
菅沼さん
そうですね。それこそ自分たちの作ったゲームだけではなくて、いろんな方がいろんな形で作られているので、「こういうアイディアがあるんだ!」っていうものは参考にさせていただいて、デジタルでゲームを作るときのアイデアとして使わせていただいたりとかしますね。
--今後もアナログボードゲームのデジタル化っていうものは、グランディングさんに限らずいろんなメーカーさんから出されるのかと思いますが、なにか注目しておきたいポイントなどあったりするでしょうか?
伊藤さん
弊社で開発している街コロについても言えることですが、やっぱりアナログ版はアナログ版の良さがありますし、デジタル版はデジタル版の良さがあると思います。どちらがより優れているっていうことはないと思いますが、どちらかを先に遊んで気に入ってもらえたら、もう片方も触って比べてもらったりとかしていただけると嬉しいですね。そうやってどんどんボードゲームの認知っていうものも、今以上に広がっていくといいのかなと思ってます。
12月の秋ゲムマで試遊が可能!24年リリースに向けて鋭意開発中
--デジタル版「みんなと街コロ」の今後の展開に関していくつかお尋ねします。現在まだ開発中とのことですが、製品版のリリースはいつ頃になるでしょうか?
伊藤さん
リリースについては来年、2024年を予定しています。鋭意制作中ですので、しばらくお待ちいただければと思います。
--夏に行われたTGSではすでに実機版での試遊が可能でしたが、今後も試遊会や体験版の配布などは予定されているでしょうか?
伊藤さん
体験版の配布に関してはまだ決まってないのですが、12月の9日、10日に東京のビッグサイトで開催されるゲームマーケット(※3)ではブースを出展しますので、そこで「みんなと街コロ」についても試遊していただけるようにしたいと思っています。
※3:日本最大のボードゲーム(アナログゲーム)のイベント
--ボードゲームとしての街コロには発展版の「街コロ通」や、カードの種類を増やす拡張なども販売されていますが、デジタル版の「みんなと街コロ」にはどこまで収録されているのでしょうか?
伊藤さん
リリース時点では街コロと街コロ通を一つのパッケージで販売予定です。『プラス』や『シャープ』などの拡張については、その後のアップデート等で対応するようにできればと思っています。
--では本日最後の質問になるんですが、アナログ版・デジタル版それぞれの開発のお2人から、街コロファンの方に向けて一言いただけるでしょうか?
伊藤さん
街コロは世界中で多くの方に遊んでいただいている製品ですが、それがデジタル版になることで、オンラインを通じてさらにいろんな人たちと遊べるようになります。この街コロの輪っていうものがどんどん広がっていくといいなと思っているので、ぜひ期待してお待ちいただけると嬉しいなと思います。
菅沼さん
実はこれ、一番最初の発表だと今年の夏ぐらいにリリースするっていう感じだったと思うんですが、社長から結構な駄目出しが入って(笑)、相当作り込み直しています。その分しっかり面白くなっていると思いますので、ぜひご期待ください。
あと、デジタル版の『みんなで街コロ』とはちょっと別の話になってしまうのですが、一つ初出しの情報がありまして……。実は次のゲームマーケットで街コロの姉妹版みたいな『街コロ:ライフ』っていう新製品を発表します。
--ええっ!このタイミングでまさかの新情報が……!ゲームのシステム的には街コロがベースになっているような作品でしょうか?
菅沼さん
そうですね。街コロが「街作り」をテーマにしていたのに対して、『街コロ:ライフ』は自分の人生を豊かにしていくっていうテーマで、ランドマークの代わりにいくつか「夢」があって、最終的には「夢ポイント」を稼いだ人が勝ちっていうゲームになっています。
--人生ゲーム的なフレーバーの街コロっていう感じでしょうか。
菅沼さん
はい、ゲームのバランスとしてもランダム要素が多めになっていて、やったりやられたり、みたいなところが強くなっています。
--なるほど……!そちらもすごく面白そうです!デジタル版の試遊とあわせて、ゲームマーケットが楽しみですね!お二人とも、本日はありがとうございました!
『みんなと街コロ』について
[取材協力]グランディング
(編集・執筆/ena)