世界に向けてこだわり抜いたマウスパッドを送り出している「ARTISAN(アーチザン)」。世界中から根強く支持されているARTISANの田原尚展氏に、ゲームエイトライターがインタビューすることに成功した。マウスパッドの常識をはるかに超えてくるお話を聞くことができたので、ぜひチェックしてみて欲しい。
※この記事はインタビュー記事の前編です。
自己紹介
ーー読者の方に自己紹介をしてもらってもよろしいでしょうか。
田原尚展氏(以下、田原氏):商品企画から運用設計、製造管理まで幅広く担当させていただいています、田原尚展と申します。弊社代表の小林の物作りを支えるポジションを担っています。2022年の12月に入社して一年程度ですが、16年ほど前のARTISAN立ち上げの頃から、製品開発に外部から協力する立場で参加していた経緯があります。
私が入社する前は社長夫妻とパートさんが数名いるだけの組織で、2022年の暮れに私を含め社員が3人入社して10人ぐらいの組織になります。非常に小さい家族的な経営をしている会社だと思っていただければと思います。
ーーありがとうございます!「ARTISAN」がどのような会社なのかご紹介いただいてもよろしいでしょうか。
田原氏:「ARTISAN」は2008年に東京でスタートした国産eスポーツブランドです。細部までこだわり抜いて作ったマウスパッドを武器に、世界85ヵ国を超える国と地域でお使いいただいています。
『次のレベル』に挑戦し続けるプレイヤーさんに応えるために、「ARTISAN」も『次のレベル』に挑戦し続けています。
ーー本日はよろしくお願いします!
日本のデバイスメーカーについて
ーー日本のデバイスメーカーは少ない印象ですけど、普段はどのような取り組みをしているのでしょうか?
田原氏:基本的にはマウスパッドを中心に、eスポーツ関係のデバイスを開発しています。今リリースに至っているものはマウスパッドだけなんですけど、他のギアの開発も行っています。例えば、前までマウスの底につけるマウスソールも展開していました。現状は販売していないので、もう一度復活させる形で開発は進んでいます。
ーーいつ頃からマウスパッドを作っているのでしょうか。
田原氏:2008年から開発していたと思います。一番最初に出した商品が「SMAR TPAD ARTISAN」という商品です。実はこの商品に関しては、プレスリリースがなくてメディアさんの記事が残っていなくて…。「Negitaku.org」という吉村さんという方が更新している個人メディアがあるんですけれど、そこにギリギリ残っている資料で参照できるのが2008年12月ですね。おそらく2008年の秋ぐらいに出したのが最初だと思います。
その頃の母体になった会社が「グローアップジャパン」という主軸事業がゲームに関するデバイスやゲームソフト、パソコンに関するパーツを取り扱うお店を秋葉原とオンラインでアメリカで数店舗を展開している会社でした。グローアップジャパンかARTISAN事業を独立分社化したものが、現在の株式会社ARTISANです。
ーーかなり前から作られていたんですね!
田原氏:他社さんも周辺機器メーカーとして20年、30年やられてeスポーツに参入したメーカーさんもいらっしゃいますけれど、基本的にここ1〜2年でマウスパッドを作り始めたメーカーさんが多いです。なので比較的長く製品を作り続けていますね。
ーー自分の好きなYouTuberさんも2014年くらいに「ARTISAN」さんを紹介していて印象に残っています。
田原氏:2014年はファンの方がリピーターとして、ずっと買ってくれていた時期だと思います(笑)私自身も「ARTISAN」との繋がりは、16年ぐらい前にプロゲーマーとして活動していた時期があって、サンプルを受け取ってフィードバックしてほしいという依頼をいただいたのがお付き合いの始まりでした。
その際に品質の高さとパフォーマンスの良さにびっくりして、このマウスパッドを使った方がいいと思ったので、競技で使うものも切り替えました。その後にスポンサーとして活動を支えていただき、製品開発やPRに協力する関係となりました。
日本でマウスパッドを作るメリット
ーー海外メーカーが主流で日本のメーカーが少ない中、なぜ日本でマウスパッドを作ろうと思ったのでしょうか?
田原氏:「ARTISAN」が創業した時の「グローアップジャパン」の主軸事業が強く関係しています。創業者の小林が、パソコンパーツのショップをスタートして、海外のゲーミングデバイスをいち早く日本に輸入したお店だったんです。様々なデバイス輸入していたんですけど、当時のゲーム用のマウスパッドのクオリティが低くて、価格も高かった。それをプレイヤーが喜んで使っていることに疑問を覚えたのがスタートです。代表がもともと自社製品も開発するほどものづくりが好きだったこともあり、日本でいい物を作ってプレイヤーのみなさんに提供できるんじゃないかとスタートしたのが起源です。
ーーマウスパッドを作るにあたってこだわっている部分を教えていただけますか。
田原氏:特定の要素というよりは、全ての要素にこだわりを持っています。日本で作るメリットの一つはクオリティを高水準で保てるので、不備のある商品があまり出てこないことです。また、プレイのパフォーマンスに直結する商品を出したい思いがあります。プレイの中で力を発揮できるものを作るのが一番の優先順位です。
そうした優先度で開発を行っているため、パッケージにこだわることは、優先度が低い話になっています。とにかくプレイヤーさんが使って、パフォーマンスが向上したり安定するものを届けたいです。基本的には説明した形で、みなさんのパフォーマンスに直結するものを追い求める姿勢自体がこだわりだと思います。
ーーゲーマーとしてお話を聞けて嬉しいです!使いたいなと思いました。「VALORANT」をプレイする時にマウスパッドを「ARTISAN」に変えてプレイしてみたいです!
田原氏:マウスパッドをゲームやシーンによって変えることは、10年以上前から提唱しています。当時はプレイヤーさんから「そんなバカなことがあるか!」という反応が多かったんです。ゲームが盛んになったここ5年ぐらいでツールが発展して、コミュニティも出てきてくれたおかげで「突き詰めていくと変わるよね」という話が出てきました。マウスパッドを変えることに、違和感を持たない方が増えてくれて非常に嬉しいです。
また、他社さんに比べても弊社の製品は選択肢が多いんです。滑走面が6種類と、中間層が3種類あります。好きなようにカスタマイズできるので、掛け算でどんどん選択肢が増えていくのが特徴です。みなさん違うフォームやプレイスタイルなので、これを使っておけば誰でもいいというものは存在しないと考えています。
我々は売上第一で営業していない理念の強い会社なので、今後もできるだけ多くの選択肢を設けるスタイルは変わらないと思います。どう試していただくのが良いのかは、メディアに展開したり、インフルエンサーさん達と協力をしながらうまく伝えていきたいです。
ーー他社のマウスパッドと比べるとどのような特徴があるのでしょうか?
田原氏:様々なプレイスタイルに対して、最適なものをお届けしたいという考え方があります。様々な特性の滑走面があって、中間のスポンジ層を複数から選べるようになっています。あとは、サイズの展開が他社様に比べると多くあります。モデルによってサイズの有無は変わるんですけど、SサイズからXLサイズの4種展開しています。
あとは国内で製造しているので、一定以上のクオリティや品質が安定していることです。品質が高いことで、より良いパフォーマンスに繋げられることが違いだと思います。
ーーゲーミングマウスパッドを超えたスポーツパッドと謳っていると思います。どのような部分にこだわってスポーツパッドという呼び名になっているのでしょうか。
田原氏:前提として、ゲーミングデバイスはさまざまなショップで、「玩具」のカテゴリーで販売されるケースがありました。そして、製品の中にはプレイヤーのパフォーマンスよりも、見た目の派手さなどを重視したものも多く存在しています。こうした環境の中で、ARTISANは対戦ゲームをスポーツとして捉え、その使用に堪える「玩具ではなく、道具を作る」という思想があります。スポーツギアとして捉えるのであれば、価格の制限もありますけど、理論的にプレイヤーのパフォーマンスに利する事はできる限り盛り込む事が求められます。こうした経緯で、スポーツパッドという呼称を使用した経緯があります。
他のブランドさんも含め、ゲーミングデバイス全体のレベルが上がってきている中で、弊社も頑張らないとなということで帯を締め直してやっています。
ーー日本のユーザーと海外のユーザーでニーズが違ったりするんですか。
田原氏:基本的に売れる傾向は似ていますけど、トレンドの差は若干あります。また、海外のトッププロが使い始めると、日本でも逆輸入的に売れる流れがあります。
その時流行するゲームタイトルによっても、売れ筋のモデルは変化します。ただし、ここ5年で安定して人気があるのは「ゼロ」です。
二番や三番目を比べた時は、国内外で若干の差が出てきます。海外の場合は「飛燕」というモデルが人気で、もう10年以上のファンも含めてリピートで買っていただいている方たちが多くいらっしゃいます。逆に日本国内になると「疾風 乙」という比較的新しいモデルが人気ですね。
ーー他にも国内外で違いはありますか?
田原氏:面白い話としてあるのが、アジア圏は湿度が非常に高い傾向にあるので、湿度によってマウスパッドの滑りが変わります。布だと湿気で摩擦に大きな影響を及ぼしたり、素材によっては湿度が60%を超え始めると、全く滑らなくなるマウスパッドもありました。それに対して弊社のものは、吸収性の低い素材を選択して作っているので、アジア圏から非常に高い評価をいただいています。
逆に湿度が極めて低い30%以下では、どうなるかという質問もあったりします。このような環境下では、特に静電気による滑走速度変化が大きくなったりします。こうした点を含め、あまり日本市場には関係しない要素であっても、様々なご意見を聞きながら工夫を取り入れた開発しています。現在は90を超える国と地域に輸出をしており、おかげさまで色々な地域の方からお問い合わせをいただいています。
ーーやはり国内と海外では違うんですね。私の周りにも「飛燕」を使っている友人がいます。
田原氏:「飛燕」はロングセラー商品で、根強いファンの方が、ずっと買っているイメージのマウスパッドです。海外で弊社のアイデンティティになった話が一つありまして、当時ゲーミングマウスパッドは黒のものが非常に多かったんです。その中で「飛燕」が赤色のマウスパッドで、海外の一部のプロが使い始めた時に話題になりまして(笑)
ーー田原さんが受注をいただいて、一番驚いた国はどこですかね。
田原氏:私はびっくりしてないんですけど、創業者の小林が言っていたのは、南アフリカからの発注はびっくりしたと聞きましたね。個人的には南米にある離島からも注文があるみたいなので、すごいなと思っています。
ーー世界中のファンから愛されているマウスパッドなんですね!
「ARTISAN」の概要
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[取材協力]ARTISAN
(編集・執筆/ゲーム山本)