世界に向けてこだわり抜いたマウスパッドを送り出している「ARTISAN(アーチザン)」。世界中から根強く支持されているARTISANの田原尚展氏に、ゲームエイトライターがインタビューすることに成功した。マウスパッドの常識をはるかに超えてくるお話を聞くことができたので、ぜひチェックしてみて欲しい。
※この記事はインタビュー記事の後編です。
プレイスタイルによってのおすすめマウスパッド
ーープレイスタイルによってのおすすめや、マウスパッド選びのポイントを教えていただけますか。
田原氏:基本的には、プレイ時のフォームや遊んでいるゲームにあったものを選ぶのが重要になります。滑り出しの軽さや滑走中の抵抗の大小に加え、中間層の硬さや反発弾性(元の形に戻ろうと反発する力)の強さも相まって操作性が決まります。
例えば、マウスを止めて射撃と同時にマウスを止めることが重要になってくるタクティカルシューターのジャンルに関しては、荷重時の止め性能がより高いSOFTやXSOFTといった柔らかいものがおすすめですね。ゲームタイトルで言えば、「カウンターストライク」や「VALORANT」などが挙げられます。
逆に相手を追い続ける必要があるゲームは、SOFTかMIDを選んでいただくのがおすすめです。このように中の素材を選んでから、6種類の滑走面からお好きなものを選んでいただけたらと思います。マウスパッド選びでは、みなさん表の布の特性や表面の硬度だけで語りがちなんですけど、このように中間層をまず選択し、その後に滑走面を選択いただくという順序をご提案しています。
ーーマウスパッドにもゲームごとの適性があるんですね。よくある質問とかはありますか。
田原氏:ガラスの板のような、全く変形しないハードタイプのマウスパッドが流行った時に、「ARTISAN」からも出さないのかというお問い合わせをいただくようになりました。
我々のターゲットとしている操作性は、「滑って止まる」操作感です。このためには、中間層の変形はなくてはならない要素だと考えているので、一番硬いMIDタイプでも少し変形するようになっています。そのため、全く変形しないハードタイプは現在のところ開発予定がありません。
現在我々は中間層の素材に「PORON」という精密なウレタンスポンジを使用しています。そのPORONに加えて新たな選択肢をご用意すべく、数年に渡って開発した新素材を近々みなさんの元にお届けできると思います。
ーー年単位で開発しているんですね!新しい素材はどのようなものになるのでしょうか。
田原氏:新しい素材はオレンジラバーベースというコード名の高反発弾性のゴム発泡体です。反発弾性とは、沈み込んだ後に元の形に戻ろうとする反発力の強さを指します。この力が強ければ強いほど、マウスを止めて沈み込んだ後に、滑りの速さが戻るまでの時間がかなり短縮されます。実際のプレイで使っていただくと、かなりキビキビON・OFFが効くものになっていますので、気に入っていただける方は多いと思います。
単純な平たさや均一性という部分だと、オレンジラバーベースよりもPORONに軍配が上がるのですが、オレンジラバーベースもプレイには影響が出ない程度に精度を上げることに成功しています。高反発弾性が操作感へもたらす恩恵は極めて大きく、多少の寸法精度を犠牲にしても、プレイヤーパフォーマンス的にはよりよい結果をもたらすと考えています。
我々としても自信作なので、頑張ってみなさんにお届けします!
ーー表面に関してもかなり種類が多いように思うのですが、特徴を教えていただいてもよろしいですか。
田原氏:より抵抗が強いマウスパッドでいうと「零」が挙げられます。「零」は抵抗とフィードバッグが強いので低めの感度に向いており、タクティカルシューターをプレイされている方におすすめです。話が長くなるので原理は割愛しますが、一般的に抵抗の強いパッドでは低めの感度を、滑りの速いパッドではより高い感度を設定いただくよう推奨しています。
少し滑るモデルに関しては「飛燕」や「疾風乙」というモデルを用意しています。マウスソールのセットアップやプレイスタイルによって滑り方が違ってくるので、どちらが滑るという言い方はできないんですけど、できれば両方試していただいて、それぞれ特性を掴んでいただければと考えています。
滑るモデルに関しては「ライデン」や「紫電改」などになります。最も滑らない「零」、バランス型の「飛燕」や「疾風乙」、最も滑る「ライデン」や「紫電改」という3つのカテゴリーが用意されていると考えていただければと思います。
ーー机周りのレイアウトでは、どのような置き方をされている方が多いのでしょうか?
田原氏:プレイスタイルによってかなり変わると思います。今流行っているゲームが「VALORANT」なので、腕全体をマウスパッドの上に置いてAIMするスタイルが流行ってきています。奥行が求められるので、縦置きにしている方もいらっしゃいます。
このように奥行きの長さを求めるプレイヤーのみなさんに向けて、より大きいサイズのマウスパッドを作っています。近日中にお出しできると思いますので、ご期待ください。
ーー長く使ってると汚れてしまうのですが、マウスパッドのお手入れの仕方も教えていただけますか?
田原氏:ゲーマーの方は水に浸して洗う方が多いのですが、メーカーとしてはあまりオススメしてないですね。滑走面(表)と防滑面(裏)の表面だけを清掃する事をオススメしています。衣類用の馬毛ブラシなどは、手軽に掃除が出来て便利です。また、馬毛ブラシであればマウスパッドを傷めずにお手入れが出来ます。他には衣類用のコロコロを使う方法もありますね。
カーペット用などの一般的なコロコロは粘着力が強いので、繊維を痛めたり、マウスパッドのベースから布部分が剥がれてしまい使えなくなってしまう恐れがあります。そのため、衣類用の粘着力が弱いコロコロを使うと良いですね。
ーー水ではダメというのは意外でした。ゲーマーの常識(?)みたいな感じでしたので。
田原氏:皮脂や液体による汚れが発生した際には避けては通れない場合がありますが、水洗いすることで滑走面だけでなく、スポンジ層を含め劣化が発生します。大切にお使いいただけることは大変嬉しいのですが、より良いパフォーマンスのためにも数ヶ月おきには新品への交換が必要になる、と思っていただけるとありがたいですね。メーカーとしてもできるだけ長持ちするように作ってはいるのですが、普段使いの中でどうしても摩耗は避けられません。
ーー摩耗していくとのことですが、どういう状態になったら買い替えのサインなのでしょうか?
田原氏:マウスパッドの場所によって滑りが違うようになったら買い替えのサインですね。本当は体感できるくらい変わっていたらむしろ遅いくらいなのですが(笑)
ーー確かにマウスパッドは滑らせるのが目的ですから、見た目ではなく滑りでチェックするのは大事ですね。
田原氏:余談とはなるのですが、硬いマウスソール(=マウスの裏側に貼られている滑り補助のシール)を使用するとマウスパッドの寿命が早く削れてしまうため、マウスパッドメーカーとしては使用を控えていただきたいです。
ーー当然のところですがプレイヤーとしてはあまり気にしたことがなかったですね。やはりそういった寿命に関する質問が多かったりするのでしょうか?
田原氏:「以前はそんなことなかったのに、2週間使っただけで滑りが変わった」といったお話をいただくことが多いですね。そこで使用環境について詳しく調べていくと摩耗しないことを売りにした鉱物やガラスのマウスソールを使っていて、マウスパッド側の摩耗が早くなっているケースが多かったです。
できればテフロンや樹脂などの柔らかい素材を使っていただけると、マウスパッドが長持ちするので、そちらを使っていただけるとありがたいですね。
開発した商品の思い入れやエピソード
ーーこだわった商品や開発にあたり苦労したエピソードについて教えください。
田原氏:全ての商品の、全ての工程にこだわっていますね(笑)滑走面の布素材の開発ももちろんこだわっていますが、次期製品についてはお話した高反発弾性をもつベース材の開発にも力を入れています。このベース材もOKを出せるようになるまで3年程度の時間がかかっていて、しかもそのOKも実は目標としていた数値の下限値で出しています。そのため、ひとまずはオレンジラバーベースもリリースを迎えますが、引き続きさらにパフォーマンスを高めたベース材の開発も続行しています。滑走面の布もそうですが、このように一つ一つの要素の開発に長い時間がかかることも、苦労する要素と言えるかも知れません。
ーーやはり開発には時間がかかるんですね。機能面で苦労したことはありますか。
田原氏:マウスのトラッキングエラーを減らすのは苦労した部分です。創業して間もない頃、当時のマウスと「ARTISAN」のマウスパッドを組み合わせると、トラッキングエラーが起きやすいという問題がよく報告されていて、早くマウスを動かすとカーソルが動かない、カーソルが飛んでしまう事がありました。
技術的なお話をすると、光学式マウスのセンサーはカメラに近い動作方式をしていて、マウスパッドの表面を読み取ってどういう動きをしているか分析をしています。そこでマウスパッドの表面が綺麗に全く同じパターンになっていると、センサー側が動いていないと判定し、不具合が起きてしまうんです。
ーーマウスパッドの表面が高いクオリティで均一に作られていた所が裏目に出てしまったと。
田原氏:物理的な意味で滑りは良かったんですが、読み取りの問題が発生してしまった点は苦労しましたね。当時からよりセンサー側が読み取りやすくなるような試行錯誤を繰り返しています。それに加え、マウスセンサー側の性能も大幅に向上したため、問題が起きるマウスは大きく減らせました。
ーー田原さんが普段使っているマウスパッドはどれになりますか。
田原氏:私はゲームによって変えているので、いっぱい出てくるんですけど(笑)タクティカルシューターをプレイする時は「ゼロ」のSOFTを使用します。動きがより激しいアリーナシューターをプレイする時には「疾風 乙」のSOFTを使用しています。さらに動きが激しいものについては「ライデン」を使うんですけど、今の所は紹介した3つに収束してますね。
ーー個人的におすすめのマウスパッドはどれになりますか。
田原氏:個人的におすすめなのは「疾風 乙」のSOFTですね。理由はバランスがよいという部分ですね。滑りが適度によく止めやすいですし非常に安定しています。
最後に
ーー最後に読者の方に一言お願いします!
田原氏:マウスパッドを変えるとプレイ時のフィーリングが変わり、みなさんのパフォーマンスも非常に大きく変わると思いますので、弊社のマウスパッドに限らず、色々なものをぜひ試していただきたいと思ってます。
また2024年には新しいマウスパッドをリリースする予定となっており、これまで以上に多くの方が手軽に購入できるようになると思います。頑張っていきますので「ARTISAN」に期待していただければ!
ーー新商品も期待しています!本日はありがとうございました!
「ARTISAN」の概要
Copyright 2019 ARTISAN All Right Reserved.
[取材協力]ARTISAN
(編集・執筆/ゲーム山本)